第29話 持続可能な支配(後編)
ダニエルは紅茶のサーバーに茶葉を加えて、ポットからお湯を継ぎ足すと、棚にあったティーカップを出して全員の分の紅茶を入れた。
「ん?そういえばあいつら出て行ったけど、ここの電源は生きているんだな?」タニグチが言った。
「そりゃ電源切ったらドアも開かないだろう?」ダニエルのセリフを聞いてタニグチはタクヤの方を見る。
「ああ、今ジャミングしたよ。僕らの行動はティアマトに見られてたんだろうな」
ファティマはよく分からないと言った感じだったが、ザックからアップルパイの残りを出して、ダニエルの前に差し出した。
「私が焼いたんだ。みんなはもう食べたからお前も食べてくれ」ファティマにそう言われて、行儀は良くないがダニエルは手づかみでアップルパイを食べる。
「うん。こりゃよくできてる。やっっぱり紅茶には甘いものが無くちゃな。そこがあいつらは分かってない。ジャミングはもう少し後にした方が良かったかな」そう言ってダニエルは笑った。
「でも普段から緑や自然は大切にって言ってるユーナムの連中は、どうして森ごと焼き払ったりしたんでしょうね。なんかあわてて私達に接触してきたようにも見えるけど…」トニーが紅茶を啜りながら言った。
「俺もおかしいと思って、サブローに聞いたんだよ。そしたら隠し事はお互い様だって言って教えてくれなかった」ダニエルが答える。
「順当に考えれば私たちの出現が関係していそうですね。先ほど聞いたマザーコンピューターの名前…ティアマトですが、それは私たちの母の名前と同じです」ノルンが言った。
「お母さんて勇者と魔王だよね。今のマザーコンピューターが稼働を始めたのは数百年も前の話だけど、一体君らのお母さんは何歳なんだい?」タニグチが聞く。
「歳は関係ないだろう?マザーが出来たのは確か800年くらい前だよ。学校で習った」タクヤが付け足した。
「勇者ゼノビアの方は人間なので40歳とちょっとですが、魔王ティアマトの方は…あれ?いくつなんだろう?」
「歳聞いても教えてくれないんだよね。昔図書館で歴史の本で調べたことがあるけど、魔王になったのは大体100年くらい前みたいだよ。今一つはっきりしないんだよな」ファティマが言う。
「私たちの世界…アルファでは800年くらい前に人族と魔族が戦うのをやめてから、あまり正確な記録が残ってないんです」ノルンがそう付け足した。
「100年前ってことは100歳以上なんだよね。勇者と魔王の混血である君たちもそんなに長く生きるのかな?」タニグチが聞く。
「魔族と人間の混血の場合、どちらの遺伝因子が出現するかで寿命はそれぞれみたいです。私たちに関しては今のところまだはっきりとは分かりません」ノルンが答える。
「じゃあお母さんに長生きの秘訣を聞いておかないといけないな」そういってタニグチはウィンクした。
面倒くさいタニグチの言葉には反応せず、ノルンは目の前のティーカップを見つめていた。ヒューマノイドは紅茶は飲まないだろうに、どうしてちゃんと全員に行き渡るほどの数のティーカップが、棚の中に置いてあるのか?そもそもティーサーバーや紅茶葉、更にはポットを捕虜の為に用意したりするものなんだろうか?
ファティマから貰ったアップルパイを食べ切って、その後紅茶を飲んだダニエルが
「うん。アップルパイと紅茶は相性抜群だ。ファティマちゃんはお菓子作りもうまいんだな」と言った。
「だろ?アップルパイは特に自信があるんだ。こいつの作り方だけはお母さんに教えてもらった」ファティマが答える。
「魔王族に代々伝わるアップルパイレシピか…それならもう少しじっくりと味わうんだったかな」タニグチがそう言うと
「また今度焼いて来てやるぞ」とファティマは上機嫌で答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます