第23話 再会(中編)
「いた!見つけた!!」
「ん?その怪しいところにいたのか?」
「そうじゃなくて彼らはこの森の中にいるわ。すぐそこ。目標の地形の中は敵がうじゃうじゃしてる。ついて来て」ノルンに言われてファティマはそのあとに付き従う。しばらく歩くと目の前には、二張りのテントがあった。
テントの前では、何やら加熱器具の上に置いた鉄製の鍋でトニーが調理をしていた。彼は二人に気が付くと驚いた顔をしている。ファティマはトニーに駆け寄って思わず抱きついた。
「なんだよ。生きてるじゃんか!心配したんだぜ」
トニーは調理の手を止めてファティマをそっと抱き返し
「よくここが分かりましたね」と言った。
それを聞いてかテントからタクヤが出てきた。ノルンとファティマの姿を見ると
「え、なんで?第一これだけジャミングしてるのに何でここが分かっちゃったの?魔法ってどんな理屈なんよ。自信無くすよな…」と言った。
「何があったの?」ノルンが聞く。
「あいつら急に森を焼き払い始めたんだよ。あそこの森は結構大きいし、位置を特定できない様に色々やってたのに、全部丸ごと焼いちゃうとか無茶苦茶だよ」タクヤが答える。
「他のやつらは?」ファティマが聞く。
「うん、ミスタータニグチは食料の調達に行ってる。ダニエルはやつらに捕まっちゃった」
「今その奪還方法を考えてるところなんだ」ノルンが声のした方を見ると、ウサギの耳を持って、肩から抱えたタニグチが立っていた。
「流石にこんなに早く来るとは思わなかったよ。せっかちなお嬢さん方だ。でも若い子に一週間ていうのは長いのかな?7日あれば神様なら世界も作っちゃうらしいからね」そう言ってタニグチはお決まりのウィンクをする。
ノルンはまた面倒臭いことを言ってるなとしかめっ面をしているが、心の内では彼らの無事を喜んでいた。しかし7日で神が世界を造ったというのはアルファでも聞いた覚えのある話だ。
「トニー、ウサギだぞ。血抜きはまだしてない」そう言って、タニグチはウサギをトニーの方へと投げた。しかしそれはトニーの元へと届く前にファティマにキャッチされた。
「ジビエの下ごしらえなら任せてよ」そう、ファティマは繰り返した転移遊びのせいで、野生動物を狩って解体するのは慣れっこになっていた。普通ならまず血抜きをして、皮を剥いでという手順になるが、そのあたりを行える生活魔法をかなり深く研究していた。物の数秒でウサギは肉塊となった。
「魔法って凄いわね。色々と汚れないで済んで助かるわ。ここ水道とかないし」トニーは感心している。ファティマはどや顔だ。
トニーの鍋にウサギ肉が投入され、火が通ったところで食事となった。ノルンはファティマの分も合わせてキャンプ用の食器を持参していた。ウサギ肉を食べながらノルンがいう。
「先ほど索敵した時に、敵基地の中に一人だけ人間が見えました。体格が良かったのであれが多分ダニエルなんですよね?」
「場所も分かるんだし、飯食ったらさっさと助けに行こうぜ。急がないと殺されちゃうかもよ?」ファティマが言った。
「大丈夫、殺される心配はない。やつらは俺達を捉えても決して殺すことは無いんだ。ただ洗脳されることはあるけどね」タニグチが答えた。
「この世界は男だけで、機械を使って子どもを産んでいるという話でしたよね?あなた方もそうやって生まれてきたんですか?」ノルンが聞く。
「そうだよ。みんな奴らに作られたんだ。奴らに逆らわない限りはそのまま、街の中で平和に暮らして行ける。飢えることも無ければ、お金も配られるから働きたい奴だけ働けばいい。面倒くさいことは全部ロボットにやってもらえばいいからな」タクヤが言った。
「何かそれって理想の世界みたいに聞こえますが、何のためにあなた方は戦う必要があるんですか?」ノルンが聞く。
「いくら飢えることが無くても、人の言いなりになって生きるなんて面白くないだろう?ペットと一緒さ。ま、俺は犬は好きなんだけどね」そう言ってタニグチは笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます