第22話 再会(前編)

 待ちに待った土曜日の朝になった。先週と同じく二人は大学の正門で持ち合わせする。ノルンの方は、毎週キャンプにいく程のアウトドア好きでない事は母親にはばれているので、競技会に向けての合宿キャンプだと言って出てきた。二人は先週と同じく図書館裏に移動する。先週と違うのは移転先が遺跡ではなく、オメガであるところだ。いきなりまた現れたら彼らは驚くだろうか?ファティマは頭の中にオメガの小屋の位置イメージを浮かべて転移の呪文を唱える。


 二人が転移した先は、森の中の小屋ではなくあたり一面の焼野原だった。転移が終わって周囲を見まわした時、最初は間違った場所に出てしまったのかと思って、ノルンは周辺地形を感知した。それが先週感知したものと同じ地形であることは確認できた。


 焼野原とは言っても燃え残った木の根の部分は所々残っていて、鎮火していない部分が薄っすらと煙を上げている。多分何らかしらの手によって、小屋は森ごと焼き払われたのだろう。小屋があったであろう場所に二人は移動した。黒い煤と灰の中から、先日ご馳走になった紅茶のカップの破片がかろうじて頭を出していた。よく見ればキッチンのかまどや流しの跡も灰には埋もれているが残っていた。


「あいつら死んじゃったのかな…」ファテイマは心配そうな表情を浮かべ、そう言ってノルンの方を見る。

「ノルン、まわりに生物は?」ファティマが聞く。

「うん、もちろん感知してみた。感知できる数キロの範囲内には存在してないよ…敵の姿もないけど…」


 ノルンは感知範囲を広げてみた。そこから先は地形ぐらいしか分からない。

「…ちょっと待って30kmぐらい離れたところに、前は気付かなかったけれど、規則性があってかなり人工的な地形がある。何かしらの遺跡かもしれないけども自然の物でない事は確かだと思う」

「あいつらもそこにいるのかな?でもなんで森事焼けちゃってるんだろう?」

「単に移動しただけなら食器類は持っていくだろうし、自分たちで小屋や森を焼いたとは考えられないな」


「あ、魔石は?リョータローに渡した魔石は通信用だろ?」

「ペアになる方はお母さんが持ってるから…こんなことなら奪って来ればよかった」

「でも、ノルンはお母さんとは普通に通信魔法で話せるんだから、お母さんから連絡を入れてもらえばいいんじゃないか?」


「その手もあるけど状況の説明が難しいし、ひとまず周辺を探してみましょう。陶器のカケラが焼け残っているという事は、金属製の武器や乗り物も溶けたにしろ痕跡が無いとおかしいでしょう?それが無いって事は逃げのびてる可能性が高いと思う」


「それもそうだな。まずはその変な地形の所へ行ってみよう。30kmか…強化魔法を使えば走って15分くらいかな?あ、この間のノルンのヤツなら10分かな?私使えないからよろしくね」ファティマにそう言われて、ノルンは二人ともに速度強化の魔法をかけた。二人は森の焼け跡内を疾走し、森の外の荒れ地もそのまま土埃を立てて走り抜ける。


「さっき言った地形の手前にも森があるので、一旦そこまで行きましょう。ついて来て」そう言ってノルンが先行し、ファティマがその後に続いた。しばらく行くとノルンの言った通り森に入った。木々が邪魔になるので、二人は移動速度を落とす。目的地まで数kmという所まで来て、ノルンは足を止めた。


「ここまくれば、さっきの怪しい地形辺りまで索敵範囲に入る。ちょっと感知してみるね」そういってノルンは目をつぶると両手で頭をおさえて感知に集中した。そうして次の瞬間目を見開いたかと思えば、みるみるその顔は笑顔に変わった。


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