第20話 強化魔法(前編)

 週が明けて月曜日の授業は先週に引き続き戦闘実習だった。前回は付与魔法について学んだが、今日は身体強化魔法についてである。ファティマとノルンは、魔法なしの素手でギガントと殴り合うようなティアマトの遺伝子を受け継いでいるので、戦闘時にはあまり必要ないのかと思って、今までは疎かにしていた分野ではある。


 しかし最初のアカツキ教授の座学では、身体強化は腕力の強化だけではなく、反応速度や防御力、魔法耐性や状態異常耐性も上げる事ができると聞いて、二人は俄然授業に興味がわいてきた。ノルンはファティマと違って、その手の強化魔法についての知識はあったが、それが自分だけでなく他者の強化に使えるところまでは、気がまわっていなかった。


「えー、個々に現在使える魔法は限定されると思いますが、将来の魔法獲得時にも頭の片隅に置いておいてください。とかく強力な攻撃魔法や回復魔法に走りがちですが、地味ながら身体強化魔法は色々と応用が利きます。例えば運動速度を上昇させれば、呪文の詠唱速度も上げられるので、魔法の連続攻撃の補助にもなったりします。何か質問はありますか?」


 教授の言葉にノルンはすかさず手をあげる。

「強化魔法は、全く魔力を持たない第三者に対しても有効なんでしょうか?」ノルンの質問に教授が答える。

「この世界で全く魔力を持たない人というのは聞いた事がありませんが…そうですね例えばペットの動物などで実験した結果、効果があったという記録はあります。しかしペットを強化して魔獣と戦わせるというのもあまりいい趣味だとは思えませんね」


 教授のその答えを聞いてファティマはノルンに話しかける。

「これってオメガのやつらにもかけられるって事だよな。あいつら飛び道具みたいなの使ってるけど、速度強化とかは結構使えそうだな」ノルンはそれには答えずにオメガに置いてきた魔石について考えていた。通信用の魔石を置いてはきたものの、全く魔力のない人間に果たしてあれが起動できるのだろうか?


「では闘技場の方に移動して、実際に強化魔法をかける練習をしようと思いますが、この中で強化魔法を使える人はどれぐらいいますか?」アカツキ教授の問いかけに、クラスの半分くらいの生徒が手を挙げている。その中にはノルンもいた。


「予想通り少ないですね…それでは使える人と使えない人でペアを組んでもらいましょう。使える人はもう一人にもかけてあげてください。その上で模擬戦を行えば、平常時とどういう違いがあるかを体感できるはずです。ではみなさん移動してください」


 生徒たちは闘技場に移動し、強化魔法を使える者と使えない者で二人一組のペアとなった。ペア同士で更に対戦相手を決めて、計4人が順番に強化魔法をかけ模擬戦をしていく。ノルンとファティマは最初は二人でペアを組もうと思ったが、はっきり言って大学1年生ぐらいの人間が人体強化魔法をかけたとしても、二人の通常時の筋力には遠く及ばない。二人が組んだ場合本気でやれば勝敗は一瞬でついてしまう。かと言って、あからさまに手加減すればアカツキ教授の心象を損ねそうなので、それぞれが別の人間とペアを組むことにした。


 ノルンが組んだのは、クラスでも特に体格の良いベネットという生徒で、対するファティマは魔法を得意とするサラという生徒と組んだ。先週の授業でファテイマとノルンの実力は教授も知るところなので、二人の入ったペアは最後に手合わせをする事になる。


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