第14話 帰還(前編)

 朝になると、昨日の晩に引き続きみんなで食卓を囲んだ。朝食はトニーとファティマが作った。こう見えてファティマは料理が得意である。がさつな母親に変わって食事を作るのはもっぱら彼女である事をノルンは知っている。


 出来上がった食事をテーブルへと運びながら、トニーが

「ファティマさんは包丁さばきも調理手順も素晴らしいですね」と言うと

「不思議だよ包丁でもまな板でも、あっちの世界とこっちの世界で変わりない。食材だって大体同じだ」ファテイマが言った言葉を聞いて、ノルンがタニグチを見ると目が合った。タニグチは微笑んでいる。


「しかしそちらの世界の魔族ってのは、みんなそんな感じで角が生えているもんなのか?」ダニエルはファティマの方を見てそう言った。

「あまり人の体の特徴をとやかく言うもんじゃないぞ」タニグチが注意した。

「ああ、気に障ったのなら失礼した」ダニエルが謝る。


「いいや、構わないぞ。角は魔族の誇りだ。私はまだ若いからこんな感じだけど、成長すればもっと大きくなる」

「それぐらいの大きさも可愛くていいと思うよ」タニグチがそう言うとファティマも

「お前の髭も見慣れると悪くないな。私たちの世界では髭を生やしているのはドワーフぐらいだ。あ、ドラゴンも髭が生えているな」と言った。


「ドラゴンがいるのか…なんかすげーな。ドワーフっていうのは女なのに髭が生えているのか?」タクヤが聞く。

「そうだな。彼女らは髭は伸ばした方がかっこいいと思っているらしい。他の種族でも生えないことは無いが、人族だと普通は剃ってしまう。ああ、獣人は剃らないな。ここではタニグチ以外はダニエルも生えてるけど、髭は生える男と生えない男がいるのか?」

「いや、みんな生えるんですがここでは二人以外は剃ってるんですよ。なんでかって言われると困りますが…」トニーが答える。

「トニーなんか顔中剃ってるもんな」タクヤがからかう。


 朝食が始まった。ここでの主食はパンらしい。おかずはソーセージを炒めたものと目玉焼き。サラダにはファティマが作った玉ねぎドレッシングがかかっている。サラダから食べ始めたタニグチは驚いている。


「このドレッシングの味は初めてだ。この細かい粒は玉ねぎかな。これなら生野菜をいくらでも食べられる。君たちの世界でも食文化は豊かなようだね。こんなにかわいい女の子に朝ごはんを作ってもらえるなら、アルファとオメガがひとつになるのは悪くないかもしれない。これは早い所ユーナムをぶっ倒さないといけないな」不意に褒められてファティマは顔を赤くした。パンは固かったものの、ソーセージも目玉焼きもおいしかった。それでもなぜかノルンの胸はちくっと痛んだ。


「今日は食事の後はどうされるんでしょうか?ゲートの場所を教えて頂ければ、私たち二人でそこへ行っても構いません」食事も終盤に差し掛かった頃にノルンが言う。

「まぁそんなに慌てなくても、しばらくこっちで遊んでから帰ろうよ。同じようでいて、ちょっと違う所もあるから結構面白いじゃん」ファテイマが言う。


「ファティマのお母さんは気にしないかもしれないけど、私の方は早く帰らないと物凄く心配すると思うんだ」

「まぁそれはそうか。学校も休みたくないしな」


「敵が守っているゲートの場所は分かるが、奴らの前でゲートを起動させるのは問題があるような気がするな。あいつらはすぐに情報を共有するから起動方法を突き留めてしまうかもしれない」タニグチが言った。


「それは心配ないと思います。昨日の様子からしてゲートの起動には魔力が必要なようです。今のところタニグチとタクヤを鑑定した限りでは、こちらの世界では人は魔力を持っていないようです。なので起動することは不可能でしょう」ノルンはそこまで言って、昨日の感知結果を思い出してまた赤面した。


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