第13話 オメガ(後編)

「予想ではゲートはこの世界が二つに分かれる前に設置されたと考えられている。このオメガの中同士で繋がっているゲートが多いみたいだけども、元々対の関係だったものがアルファとオメガにまたがってしまったものを使えば、アルファに戻れる可能性は高いだろうね」タニグチが答えた。


「既にゲートはいくつか発見されていると言いましたよね。という事は手当たり次第にそれを試して行けばいつかは帰れそうな気がします」

「まぁそうだろうね。でもその時は僕たちもついていって、君たちが転移した後そのゲートを破壊させてもらうよ」タクヤが言った。


「お話を伺うと現状ではそれもやむ無しという感じですね。せっかくこうやって存在を知った異世界と行き来できなくなるのは残念ですが…」ノルンが残念そうに言う。

「今の支配者を倒してこの世界に平和が訪れたなら、その時改めて伺わせてもらうよ」そう言ってタニグチはニッコリ微笑んだ。面倒くさいジョークは無しだった。ノルンはその笑顔に少しだけ胸がギュッとした。


 その夜は6人で食卓を囲んだ。お互いの世界の違いについて語り合えば、話が尽きることは無かった。夜も更けてそれぞれが眠りにつく。客人でもあるノルンとファティマには部屋があてがわれた。部屋にはベッドも二つ置いてある。代りにタニグチとタクヤは大部屋で雑魚寝になった。


「文化は大きく違うのに、ベッドや布団は似たようなもんなんだな。ちょっと不思議だ」ファティマは枕をぽんぽんと叩きながらそう言った。そうして何気なく枕の臭いを嗅ぐ。そうしてすぐに顔をしかめて枕から離した。


「これダメな奴だ。獣の匂いがする。ノルンのお母さんがくれたポンチョを敷いて寝よう」先ほど使い方を聞いたLED照明のスイッチを切って消灯したところで、ノルンは窓から外を見てみた。小屋の周辺は森が切れているので空が見えた。空には星が瞬いていた。


「わたしちょっと外を見てくるね」部屋には直接外に出られる扉が付いていた。ノルンは靴を履いて外に出ると小屋の横にある長椅子に腰かけて星空を見上げる。


「眠れないかな?」声がした方を見るとそこにはタニグチが立っていた。

「星を見てたんです。不思議です。季節は違う感じですが、星の位置関係は私たちの世界と全く一緒です」

タニグチは長椅子にノルンからやや距離を置いて腰掛けると、同じように星空を見上げた。


「やっぱりそうなのかな。君たちには分からないかもしれないが、この星は球形じゃないと説明できない事が多いんだ。本当は今もひとつの存在なのに、二つに分かれているように感じているだけなのかもしれない」


「そこはよく分かりませんが、物理的な事はおいておいて、どうしてこの世界は二つに分かれてしまったんでしょうね?」


「どうしてなんだろうね。子供の頃に聞いた話だけど、昔の偉い人がいうには人間の存在も本来はひとつの球体で、それが半球の男と女に分かれたんだそうだ。だから元に戻りたくてもう半分をずっと探し続けているらしいよ」

「その話全然関係ないですよね?私の世界では誰もそのんなもの探している人いませんよ」

「寂しい話だな。男の永遠の片思いって訳か」そう言ってタニグチは肩をすくめた。

「男の人ってみなさんあなたみたいに面倒くさい感じなんでしょうか?」そう言ってノルンは笑った。


 ノルンにとって今日初めて会った男というものの声は、それまで聞いた誰の声よりも低いものだった。しかしそれは決して不快なものではなかった。ノルンにはこのまま元の世界に戻れないかもしれないという不安はあったが、それならそれでもいいかなと一瞬思ってしまった。しかしすぐに首を横に振って思い直した。暗い森の向こうの方でフクロウが鳴いていた。 


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