第10話 転移先(後編)
「フフッ、だってノルンが防御結界張ってくれるって分かってたし」
「そうじゃなくて、これじゃゲートが壊れて帰れなくなっちゃうでしょ!!」
「あ、それは考えてなかったな」ファテイマはテヘペロする。
谷の上部からだいぶ離れたところまで移動したところでノルンは防御結界を解いた。四人は先ほどの谷底ではなく本当の地上に降り立った。周囲は見通しのいい荒れ地だった。遠くに森も見える。地面の裂け目からは先ほどの魔法による炎の渦がまだ吹き出していた。さながら火山が噴火している様である。
その様子を見ながら悦に入ってるファティマにタニグチは話しかける。
「君凄いね。今の攻撃は空から降ってきたように見えたが、誘導ミサイルか何かなのかな?もしかして衛星兵器?」
「またこいつわけわかんない事いってるよ」ファティマがノルンに向かってそう言った。タニグチの言っている内容はノルンにも良く分からなかったが、凄いと言われてファティマはまんざらでも無いようだ。彼女が少し照れているのがノルンには分かった。
「さっき君たちゲートとか帰れなくなるとか言ってたけど、もしかして転移ゲートを通ってここに来たのかな?言葉は通じるみたいだからそんなに遠い地域の人では無いと思ったんだけど…」タニグチが言った。
「さっきの良く分からないモノ達は、ゲートを調査に来たんですね」転移の話には答えずにノルンは逆にタニグチに聞き返した。
「なぜそう思うんだい?」
「先ほどのモノたちは遠方からは攻撃して来なかったからです。つまりはあそこに壊したくないものがある。そうして丁度ここに居合わせたあなた達はゲートの存在を知っている。彼らと敵対しているのは、様子を見れば分かります。全てを合わせて考えればそういう結論になるでしょう」ノルンが言った。
「君は頭の回転が早いんだな」タニグチにそう言われて今度はノルンが照れている。
「転移してきたことは言わない方がいいのか?」ファティマはタニグチとタクヤには聞こえないようにノルンの耳元で囁いた。
「ゲートの存在は知っているようだけど、目的が分からないからむやみに明かさない方がいい気がする」
「うん、あとこいつらなんか変だよね。どう変なのかはうまく言えないけど、とにかく変だ」
「私もそう思う。あとから現れたタクヤって方はどうみてもドワーフじゃないし…」
「内緒の相談は終わったかい?」タニグチにそう言われて、二人は彼の方を見た。
「あなた方を鑑定させていただいてもよろしいですか?」ノルンが男二人に向かって言った。
「黙ってやっちゃえばいいのに」そういうファテイマに
「人を鑑定するときは、ちゃんと承諾を得るようにってお母さんから言われてます」とノルンは答えた。
「鑑定?良く分からないが何かを見定めるって事かな?見られてまずいような物はベッドの下に置いてきたからお好きにどうぞ」タニグチにそう言われてノルンは若干の感知魔法を混ぜつつ鑑定スキルを発動した。なんかこいつメンドクサイなと思ったのはひとまず置いておく。いつも鑑定時に感知スキルを混ぜるのは、鑑定で分からない情報も、狭範囲での感知であれば詳細な形や構造などを読み取ることができるからだ。
鑑定をして…急にノルンの顔が赤くなっていく。
「どうしたノルン、なんかあったのか!?」ファティマはノルンにそう声をかけると、タニグチとタクヤの方をきっと睨みつけた。
「お前ら彼女に何をした!!」振り向きざまにポンチョのフード部分が脱げて、顔が露になる。ファティマの頭には魔族の象徴である角が二本生えている。
タニグチとタクヤは彼女の容姿に驚くと同時に、訳が分からず困惑していた。ファティマは腕を振り上げて魔法での攻撃態勢を整える。
「やめてファティマ!違うの!」ノルンが叫んだ。
「驚いたというか、なぜかわからないけど同時に恥ずかしいという感情が起こっただけなんだよ。…多分ね…信じられないだろうけど、この人たち男よ!」
「男?男って人間のオスってことか?何言ってるんだよ。そんなもの存在するわけないだろう」
それを聞いてタニグチが口を開く。
「男って…そりゃそうだろう。こんな髭を生やしたレディがいるなら是非紹介して欲しいもんだね」
「タニグチ、この二人女だよ!」先ほどから黙って手元の端末を見ていたタクヤが叫んだ。
「お前黙って鑑定したな!失礼だろ!」ファティマが怒る。さっきそれを自分がしようとしただろうと思うとノルンはちょっと笑ってしまった。
それからタニグチたちの方を見ながら隣のファティマにも聞こえるようにこう言った。
「どうやら私たちは異世界に転移してきたみたいね」
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