第9話 転移先(中編)
男は銃を下ろして背中に背負うと、二人の元へ歩み寄ってくる。近くで見ると鼻の下から顎にかけて髭をたくわえている。
「お前さん達、危ない所だったな。ここらの人間か?あそこにある大きな扉は何なのか知っているなら教えて欲しい」
突然そう聞かれて二人は顔を見合わせる。
「あの中には…」ノルンが言いかけたところで、上空から先程とは比べられない程の大きさの円盤状の物体が降りてきた。直径は5mぐらいはある。先ほどの小さな球体と同じモノも周囲にいくつか浮かんでいる。
「まずい、母体が来たか。ここはひとまず逃げよう」男がそう言っても二人は動く気配を見せない。
「何だよ、壊してもいいなら早く教えてくれよ」ファティマはそう言ってニヤリと笑った。そうして右手を上に上げて
「ファイヤ!!」言葉と共に右手を下に振り下ろし円盤の方を指し示す。すると彼女の右手の指先からは大きな火の玉が出現して円盤へと向かった。火の玉は見事に円盤に命中したがはじき飛ばされた。跳ね返った火の玉は周囲に浮かんでいた球体にぶつかり、ぶつかった球体は下に落ちた。
「でかいやつは火属性なのかな?じゃあこれでどうだ…」そう言ってファティマはまた同じ動きをして叫ぶ
「サンダー!!」今度はその指先から電撃がほとばしった。雷撃は円盤を包み込み、しばらくの間光り輝きながら空中に放電を繰り返している。小さな雷が落ちたかのような轟音があたりにこだました。今度は効いたようだ。円盤はふらふらと安定を無くし、地面に力尽きたかのように舞い降りた。
「雷系は効くようだな」そう言いながらファティマはドヤ顔をしている。
「君、火炎砲や雷撃砲を持ってるのかい?武器が目には見えないけど光学迷彩かなんかなのかな?こんな辺境地でも結構凄い武器があるんだな」髭面の男はそう言った。
「ノルン、こいつわけわかんないこと言ってるよ。髭が生えてるけどドワーフなのかな?」
「こんな大きなドワーフ見たこと無いわね。なんか妙な匂いがするし…」
「ミスタータニグチ!」谷の奥の方からそう大声をあげながら、もう一人男が駆け寄ってきた。手には四角い端末のようなものを持っている。
「どうしたタクヤ」髭面の男の名はタニグチ、もう一人はタクヤと言うようだ。
「敵影がレーダーにかなりの数映ってます。完全に囲まれてますね」
「まずいな、思ってたより随分早い。全くもってせっかちな連中だ。数も多すぎだな、どんだけ寂しがり屋なんだあいつら。さて俺たちはどう逃げたもんかな…」端末の敵影を見てタニグチもそう言った。
「なんだよ敵がたくさん来るのか?全部壊していいんだよな?ならまかしとけよ」ファテイマが言う。ノルンの方を振り向くと
「ノルン索敵お願い」と言った。
「もうやってる。この四人以外は数キロ以内には鼠より大きな生物はいないわよ。敵の数は…数えきれないな」
そうしてすぐに谷底から見える空は敵の機影で埋め尽くされた。それらはゆっくりと降りてくる。数十体、いやもう一桁多いかもしれない。全機体が谷の中に入ったところでファティマは両腕を高々と上げて呪文を呟き始める。
「ラーマイソン・エストウネマチーネ・アハビター…」
それを聞いてノルンは慌てる。
「ちょっと待ってよファティマ、その魔法…」
ノルンの呼びかけにもファティマの詠唱は止まらない。
「漆黒の空に燃え盛る紅蓮の炎と塊よ、マルタンの空より我が槍となりて敵を焼き尽くせ!」そう言ってファティマは振り上げた両腕を振り下ろした。ノルンは手を額に当てて天を仰ぐ。
「メテオーマ!!」
ファティマの叫びと共に上空に見えるギザギザの空には暗雲がたちこめ、その底部分はやがて赤く光りだす。赤い光は段々とその輝きを増し、突如として雲を突き抜けて、赤い塊が空から降ってきた。それはひとつではなかった、連続していくつもの塊が描く赤い軌道で、ぎざぎざの細い空が埋め尽くされていく。全ての軌道はこちらへと向かってくる。
「絶対防御(アイソレーション)!!」ノルンがそう叫ぶと4人のまわりには半球状の防御結界が展開された。
赤い塊はひとつまたひとつと谷の中へと降り注いだ。地面に轟音をたてて激突した後も、周囲に炎は分散しそれが幾度も繰り返されると、谷の中は赤い爆炎で埋め尽くされる。
「このままじゃここ崩れちゃうわね」そう言ってノルンは右手を挙げた。
「フロート!!」結界は地面から4人を包んだまま地面から浮き上がる。谷の中は赤い水で満たした洗濯機の中の様に炎が渦巻いている。逃げ場のない爆炎と爆風が渦となっているのだ。その中をノルンの防御結界で包まれた四人は、ふわふわと風船の様に上に上がって行く。
防御結界の球体は炎の渦を抜けて、谷から吹きあがる炎の横へと移動した。ノルンはカンカンだ。タニグチとタクヤは訳も分からず口をあけてああんぐりとしている。
「あんたなんてことするのよ!!」
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