第8話 転移先(前編)

 そうして二人はゲートの光から出てきた。出てきてあたりを見まわす。

「ん?何にも変わってないな。また同じところに戻ってきたのかな?」ファティマはあたりをキョロキョロと見まわしている。


「どこも同じ様な作りかもしれないね。とりあえず外に出てまわりを確認してみようよ」そう言ってノルンは階段通路の方へと歩き出した。階段を登った先には予想通り扉が鎮座していた。但しそれは閉じていた。踊り場のような扉前の空間は外から光が入ってこないのでかなり暗い。


「さっきは内開きだったから、中から外に出るには押すんじゃなくてひっぱらなきゃいけないよね。引き手とかついてないからひっぱって開けるのは大変そうだな」

「人が通れるくらいの穴を開けちゃおうか?」そう言ってファティマは呪文の詠唱を始める。

「リプレス!!」彼女がそう叫ぶと、扉の下部に人が通れるくらいの四角い穴が開いた。

「向こうがどうなっているか分からないけども、これぐらいの穴なら怒られないだろ?」

「鑑定しても良く分からない素材なのに、よく穴が開けられたわね」

「うん。破壊したわけじゃなくて空間を入れ替えただけだから…ほら、そこに交換した部分が転がっているだろう?転移魔法と違ってこれは何度でも使えるけど、見える範囲じゃないと使えないし、今の私にはこれぐらいの大きさがせいぜいだ」ファティマは軽く言ってのけるが、これは例えば戦う相手の首をそこらの岩と空間ごと入れ替えられるという事だ。今後そんな事にはならないと思うが、魔王と勇者が戦う時代に産まれなくて良かったとノルンは再び思った。


 遠慮気味に空けた穴は1m角ぐらいだった。外から僅かに光が入り込んでくる、二人は一旦しゃがんでそこを潜り抜けた。しかしその外に広がる景色は、あの遺跡の中のような場所ではなく谷底のようなところだった。外に出て扉の方を振り返ると、崖に扉がついているような感じだ。扉の側とその逆側は切り立った崖状で、崖に囲まれた溝状の空間はずっと先まで続いている。続いてはいるが直線では無いので奥の方は見えない。上には空が見える。崖の高さは100m位はあるだろうか。結構深い。


「なんか変な所だね…ノルンちょっと地形を感知してみてよ。あ、上からじゃないと難しいかな?」ファティマの言ったとおりだった。今の谷底の様な部分からだとあまり広範囲には感知できない。


「ちょっと上に行ってみようか?」ノルンがそう言ったところで、谷底から見えるギザギザの空から何かが降りてきた。

「何か来たな…」ファティマがその何かを指さした。それは白くて球形をしていた。中央には丸い円状の窪みがあって、その底は赤いランプのように光っている。それは二人の頭上数メートルの所まで降りてくると声を発した。


「未確認個体デス。識別番号ヲ報告シテクダサイ」

ノルンとファティマはお互いの顔を見合わせた。

「ノルン言語魔法とか使ってないよな」

「うん、私たちと同じ言葉を喋ってるね」

 二人の会話は聞こえないかのように、その球形のモノは繰り返す。

「未確認個体デス。識別番号ヲ報告シテクダサイ」


「なんだろう?自己紹介しろって事かな?」ノルンがそう言うと、ファティマが一歩前に進んでこう言った。

「私は魔王の娘ファティマ。転移ゲートを通ってここへ来た」

「魔王って言ったらまずいんじゃないの?」

「知らない場所の知らないヤツに嘘の自己紹介したら失礼だろ?」


 二人がもめていると、球体は先ほどとは違う事を言い出した。

「識別不能、識別番号ノ報告ガ無イ場合、反乱個体ト識別シ、デリートヲ開始シマス」


「やっぱわかんないのかな?でもデリートってなんだろう?」ファティマが言った。

「消すって事じゃないの」ノルンがそう言うと同時に球形のそれの赤い光の部分が点滅を始める。


「なんか失礼な奴だな。ぶっ壊しちゃおうか?」

「そんなことしたら持ち主が怒るんじゃないの? とりあえず防御結界を展開しておこうか」ノルンはそう言うと二人の周囲に防御用の結界を半球状に展開した。

「 デリートヲ開始シマス」球体は最後にまたそう繰り返すと、赤い部分はひときわ明るく光り始めた。


『ヒィーン!』と空気の震える音がして、一筋の赤い輝く線がその球体を貫いた。

 球体のランプ部分の光は消えて地面に落ちた。


 二人が光の筋の大元を目で追うと、そこには一人の男が大きな銃を構えて立っていた。

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