第7話 遺跡(後編)

「扉の咬み合わせの形状から察するに、引くのではなくて押して開けるみたいね。他の機構は良く分からない」そう言うとノルンの体は急に輝きだした。そう、無詠唱で身体強化魔法をかけているのだ。


 ノルンは輝く体で扉を前に押し出す。吊元がこちら側から見て右側で、鍵がない事も感知して分かっている。いや、もしかしたら鍵はこの扉自体の重さかもしれない。普通の体力では開けることはできないだろう。であればあとは力の問題だ。ノルンの脚は地面にめり込む。


「むおおおお!!」ファティマが普段聞いたことの無いような声を出して、ノルンは踏ん張る。

『ググググ…』丁番も石製なのか、低くて石が擦り合うような音があたりに響く。そうして少しずつ扉は内側に開いていった。50CM程度開いたところで、ノルンは押すのを止めた。


「うん。これぐらいあればもう大丈夫でしょう。体は通れそうだけど、ザックは引っ掛かりそうだからファティマのアイテムボックスに入れておいてよ」そう言ってノルンはザックを下におろすと、さっさと扉の内側に行ってしまった。普段は真面目で堅物な印象のノルンも、結局は自分と同じような性格じゃないかと、ファティマは少し笑ってしまった。

 ファティマは背中のナップザックを下ろして口を開け、ノルンのザックの上に被せる。ザックは風船が掃除機に吸い込まれていくように、小さなナップザックの中に納まっていく。全て入ったところですぐにナップザックを背負い直してから、彼女も扉の内側へと進んだ。



 扉の内側は踊り場のような平たい部分少しあるだけで、その奥は丁度扉と同じくらいの大きさの、床が階段状の地下通路となっていた。階段の下の奥の方から僅かな光が漏れて来ている。既にノルンの姿は上からは見えなかった。ファティマはそのまま奥へと進む。前から漏れ出る光と、後ろの扉の開いた隙間から入り込んでくる外光のおかげで、魔法を使わずとも目がいいファティマにはすべてが見えていた。


 階段を降りて行くと、やがて大きな空間に出た。窓などはなくて真っ暗なはずであるのに、そこがどれくらいの大きさであるのか、そこに何があるのかは目で確認することができた。先ほど下からも光が漏れて来ていたが、僅かながらに空間自体が光っているのだろう。そうしてその大きな空洞の真ん中には、縦長のだ円形の物質が鎮座していた。その前でノルンが棒立ちをしている。


 だ円形の物質は高さは5mぐらいで、厚さは1mぐらいあった。縁部分を残して表面はツルツルしている。ツルツルといっても平たいというだけで、光を反射などはしていない。ただ逆にそのつやの無さに違和感を覚える。縁の部分には模様が掘り込まれているようだ。ノルンはそこに触れて鑑定を始めている。


「ダメだ。文字みたいに見えるけど解読できない。少しだけ古代文字に似ている部分があって、『ゲート』みたいなニュアンスがあるみたい」

「なんだよゲートったら転移ゲートだろ?昔話で読んだことあるぞ。確かこんな形してた。今日はもう転移魔法は使えないけど、これってあの魔法と同じ感じがするんだよな…言葉じゃうまく言えないけど…」


「転移ゲートなんて童話か 空想小説でしか知らないけど、これでどこかに転移できるって事かな?」

「多分そんな感じだと思うぞ。魔力はまだたっぷり残ってるし、ちょっと流してみるか?行った先がヤバかったら戻ってくればいいだけだし…どこに転移されるのか見てみたい」


「大丈夫かな…二万年前の遺跡という事は、転移先は今は海の中や地面の中って可能性もあるんじゃないの?」

「私とノルンならちょっとやそっとの事じゃ死なないだろ?いいじゃん行って見ようよ。これは多分神様のお導きだよ」


 宗教なんか信じてないくせにと思いつつ、ノルンはこう返した

「ダメ元だとは思うけどまずはちょっと鑑定してみるね」そう言ってから彼女は今度は縁部分ではなくツルツル部分に若干の感知魔法を混ぜつつ鑑定スキルを発動する。


 すると突然ツルツル部分は自ら発光を始めた。そうしてノルンは腕からそこに吸い込まれていく。

「うわ、起動しちゃってるじゃん!!」そういってノルンに後ろから抱きついたファティマごと、二人は光に吸い込まれていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る