第6話 遺跡(中編)

「ふぅ。転移魔法ってのはあんまり気持ちのいいもんじゃないな。何か高い所から急に下に落ちたみたいで、下腹のあたりがもぞもぞする…それであっちに見えているのがその遺跡?」ノルンは石積の方を見ながら言った。


「そうだ。ここからは木が邪魔で全体は見えないけど結構な大きさだぞ」

「ちょっと待って、索敵するから」そう言ってノルンは目を瞑り、右手でこめかみのあたりをおさえる。


「うん、近辺に魔物はいないみたいね。森の中なのに珍しいな。ついでに周辺の地形も読んでみたけど、知っている場所に合致するものはないかな」

「前に来た時も魔物は出なかったんだ。ノルンでも正確な場所は分からないのか…結構遠いんところなんだろうなきっと」

 ノルンの索敵出来る範囲はせいぜい半径数キロメートルだが、地形となるとその数百倍は感知することができる。それでも分からないという事は、市販されている地図などには載っていないエリアなのかもしれない。


「朝の八時にしては太陽が高いから時差もあるみたい。確かに結構な距離を移動したんだろうな」

「まぁまずは遺跡に行って見ようぜ」ファティマにそう促されて、二人は遺跡の方に向かって歩き出した。


 森はすぐに開けて、眼前には石積の遺跡が広がっていた。ノルンは先ほど森の中から見た時は一つの大きな建造物があるのかと思ったが、それは違っていた。かなりの規模だ。建物というよりは町を眺めるようなそんなスケールだった。


「な、凄いだろ?こんな規模の遺跡は私も初めだ。早く年代測定してみてくれよ」ファティマに言われてノルンは手近にあった石積に手をあてて、鑑定スキルを発動させる。様々な情報が頭に流れ込んできた。


「年代で言えば二万年ぐらい前のものみたい。しかもこれ普通の石じゃなくて、人工的に作られてるんじゃないかな。自然のものにしては中の構成が均一すぎると思う」

「切り出した石を積み上げてるんじゃなくて、人工的に作った大きなブロックを積み上げてるって事か?」

「まぁそんなところでしょうね。でも劣化はしてても二万年の間風化もしないで残ってるなんて、なかなかの文明だったんじゃないかしら」


「ふーん。でもこないだ来た時に色々見て回ったけど、遺骨とか生活道具とかの類は全然見当たらなかったんだ。本とかも無いし…その代りに何か良く分からない遺物は沢山あったけどな」


「今遺跡の大きさも感知してみたけど、三km四方ぐらいかな。小さな町位ある。でね、中央には地下空間もあるわよ」ノルンは先ほどの地形感知と違って、範囲を数キロに絞って読み取っていた。その範囲であればかなり細かいところまで把握できる。

「そうなんだ。この前来たときには気付かなかったな…地下なら風化を逃れて何か残っているかもしれない。とりあえずそこに行って見ようか」


 遺跡の中央に向かって移動しながら、時折二人は建物らしきものの中にも入ってみた。確かに先ほどファティマが言ったように、そこには生活道具と思えるようなものは無くて、小さな四角い石のようなものが散乱しているだけだった。その四角い石をノルンは鑑定して行く。


「うん。この石みたいなのも人工物みたいだね。壁の大きなブロックと似たような感じだけど、こっちのは内部構造は均一じゃない。均一じゃないけど規則性が感じられる。何らかの情報が保存されているのかも知れないね」

「そこはノルンでも読み取れないんだ」

「なんか私たちの知っている文明とは違う体系の感じがするよ。一つ持って帰ろうかな。ちょっと研究してみる」そう言ってノルンは石をひとつ拾い上げてザックに入れた。


 時折ノルンが地形を探知しながら歩く。しばらくして二人は遺跡の中央付近に辿り着いた。

「で、その地下空間にはどうやって降りたらいいんだ?魔法で地面に穴でも開けるか?」

「そんな事したら崩れちゃうでしょ。ちょっと待って、範囲を数十mに絞って感知してみるから」ノルンにそう言われて、ファティマはへいへいと気のない返事をする。


 ノルンはまた目をつぶって感知スキルに集中する。そうして数秒もせずに叫んだ。

「あった!階段状の形が見える。こっちよ!」80ℓの重いザックをものともせず、ノルンは小走りに移動する。ファティマもそれについていく。

「通路の繋がりからして、きっとこれが扉みたいなものだと思う」ノルンにそう言われてファティマは気が付いた。この遺跡では建物のような物へ入る部分は全て壁に穴の様なものが空いていたが、扉も窓も見当たらなかった。しかしそれは二万年という月日の中で、壁の素材とは違って風化して消え失せたのかもしれない。


「これが扉だとしてどうやって開けるんだ?というかちょっと大きすぎないか?」ファティマが言った。ノルンが答える。

「二万年前の人が大きかったのかと言えば、ここに来るまでに見てきた建物の開口部はそんなに大きくなかったし…普段は解放されていて、人を行き来させる扉というよりは、封印したり管理するためのものだと考えた方が良さそうね。扉が大きいのは中へ搬出入するものが大きかったんでしょう」そう言って彼女は扉に手の平をあててまた目をつぶる。説明が無くてもファティマにはノルンが何をしているのかすぐ分かった。感知魔法と鑑定スキルを同時発動しているのだろう。

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