第11話 オメガ(前編)

「とにかくここでは、いつまた奴らがやってくるか分からない。詳しい事はまた後だ。とりあえず俺たちのねぐら迄来て欲しい。君たちには色々と聞きたい事がある」タニグチはそう言ってから、腕にはめている携帯端末のようなものを使って、エアカーを呼び寄せた。


「あれは俺の愛車だから、電撃砲は勘弁してくれよ」そう言って彼はファティマにウィンクした。

「敵と味方の区別ぐらいつくよ」ちょっと怒ったようにファティマは言ったが、初めて見る人の男という存在に、実は彼女はひどく動揺していた。


 タニグチが愛車と呼ぶそれは、オープンカーの用に上部は外に剝き出しになっている。そうしてタイヤは無く地面から僅かに浮いていた。前列の運転席と助手席にはタニグチとタクヤが座り、後部にノルンとファティマが乗った。エアカーは荒れ地を疾走する。


「見たことのない魔道具だけど風が気持ちいいな」ファティマは何だか楽しそうだ。ノルンは黙ってあたりを見まわしている。時折感知魔法で周囲を探るが、全くここがどこなのか手がかりを得ることはできなかった。


 四人は探り探り会話を交わしながら、小一時間程走るとエアカーは大きな森の中に突入した。

「ここらには色々としかけがしてあって、奴らも場所を特定できないんだ」タクヤが後ろの席の方を向いて二人にそう説明した。エアカーは森の中をしばらく進んだあと、粗末な木造の小屋のような建物の前で止まった。


 ファティマとノルンは、タニグチとタクヤの後について小屋の中に入る。そこは外から見るよりは大きな空間に感じられた。中には二人の男がいた。フードを被ったノルンとファティマを見て、男のうちガタイのいい方の一人がタニグチに声をかけてきた。


「どうした子供なんか連れてきて」


「18才だからもう子供じゃないぞ!」ファティマが声を上げる。

「ん?18才で声変わりしてないのかしら?」もう一人の男がそう言った。


「声変わりってなんだ?」ファティマはノルンの方を向いて聞く。

「そんなの私も分からないよ」


 少し笑いながらタニグチはノルンとファティマの前に右手を差し出してこう言った。

「紹介するよ、こちらはノルンとファティマ、レディだから失礼の無いようにな」タニグチはあえて移動中に聞いた名前と性別以外の事は言わなかった。全てを一度に話したらここにいる二人の男が混乱すると思ったからだ。いや、女性というその事実だけで二人は酷く驚いていた。


「女だって?それって人間のメスって意味か?そんなものどこから連れてきたんだ!?確かにここまでよくできたヒューマノイドは見たことないが、にわかには信じがたいな」

「まぁまぁ追って説明するからさ…ノルン、ファティマ、この体の大きいやつがダニエルで向こうの細いやつがトニー。あと今はいないけど、もう一人ワンってやつがいる。俺たちは五人一組で行動してるんだ」


 ノルンとファティマはフードを脱いで、ダニエルとトニーに挨拶をする。

「魔王の娘ファティマだ。得意な魔法は炎系と雷系だ。時空魔法も使えるぞ」

「勇者の娘ノルンです。得意な魔法は水系と氷系です。鑑定スキルと感知魔法も使えます」それを聞いてダニエルとトニーだけでなく、タニグチとタクヤもポカーンと口を開けている。車の中でもそこまでの話は聞いてなかった。


 しかしタニグチだけは一早く平静を取り戻しこう付け加えた。

「彼女たちは転移ゲートを使って、異世界から来たらしい」


「ちょっと待てよタニグチ、話を整理するとこうか?この二人は魔法が使える異世界からゲートを通って転移してきた。しかも勇者と魔王の子供…更には二人とも女性だって事だな」ダニエルが言った。


「やっぱり新型のヒューマノイドなんじゃないの?」トニーは比較的冷静だ。それでもファティマの頭に生えた角の存在には突っ込まない。ツッコミどころが多すぎて情報の整理が追い付いていないのだろう。


「いや、最初見たとき僕もヒューマノイドだと思ってスキャンしたから違うと思うよ。女性というのは多分本当だよ」


 タクヤのその言葉を聞いて再びノルンは赤面した。スキャンというのはきっと先ほど自分がした感知と鑑定のようなものだと直感で分かった。という事は先ほどの自分とは逆の物を見られたという事になる。なぜそれが恥ずかしいという感情に繋がるのかは良く分からない。ファテイマはそんなノルンの様子を不思議そうに見つめている。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る