第2話 共立魔法大学校(前編)

  ノルンが教室に入るとファティマは机に突っ伏していた。

「おはよう。朝から眠そうね」ノルンは彼女にそう声をかけて隣の席に座る。


「朝は眠いって相場がきまってるだろ。でも昨日帰ってきたのが遅かったから、今日は特につらい」ファティマは机から顔を起こすことも無くそう言った。

「また転移遊びしてたの?あなたいつか死ぬわよ」


 それを聞いてファティマはむくっと机から顔をあげた。そうして小さな声でノルンに言った。

「転移魔法の話は内緒だろ。私はここでは魔王族じゃなくてただの魔族ってことになってるんだから」


 そう、勇者と魔王のカップリングは世間で話題となったが、それぞれの娘は悪目立ちしないように世間的にはファティマは魔族、ノルンは魔法戦士という事になっている。転移魔法は通常の移動魔法と違って、魔王種しか持ちえないスキル魔法なので、それが使えるとなれば正体がバレてしまうのだ。


 ノルンは慌ててファティマの口を抑える。そうして小声でこう言った。

「バカッ!転移魔法なんて誰も言ってないでしょ!『転移遊び』から魔法を連想する人なんているわけないよ。普通の人はそんな魔法見たことも聞いたことも無いんだから」


 ファティマは18歳になる頃に、魔王種しか使えない転移魔法が使えるようになった。転移魔法は読んで字の事く魔力を使って空間を転移するもので、一瞬のうちに好きな場所に移動することができる。一度行った場所はメモリーされて、また何度でも行く事ができるが、行き先を特にイメージしないで転移した場合、どこに行くのかは術者にも分からない。


 逆にそれがスリルがあって面白いという彼女には、週末土曜日の朝にどこかに転移して、日曜日に帰ってくる『転移』遊びがマイブームとなっている。なぜ土日にまたがるかと言えば、転移魔法は今のところ、残りの魔力に関わらず1日に1回しか使えないからだ。きちんと学校は休まないようにしているところは、案外まじめだなとノルンは感心している。


 ティファナはテヘッと舌を出して片目をつぶってウィンクした。

「それがね。一昨日行った先で面白いものみつけちゃったんだよね。遺跡なんだけど、ありゃ相当古いぞ。よくわからない遺物がゴロゴロしてた。どこなのかは分からないけど、転移先としてはメモリーしたから、次の週末ノルンも一緒に来てくれないか?ノルンなら周辺地形が感知できるから場所も特定できるし、鑑定スキルで遺跡の年代も分かるだろ?」


 空間魔法の才はファティマの方が秀でていた。転移魔法もノルンにはまだ使えない。使えるようになるのかも分からない。今は小さいものを少しだけ移動させる、普通の空間移動魔法ぐらいがせいぜいだ。ただ、感知や鑑定についてはノルンの方が優れていた。似た遺伝子を持つもの同士のはずだが、魔法やスキルの特性は全く違っていた。外見も魔族としての特徴を色濃く持つファティマが、浅黒い肌の色をして黒髪なのに対して、ノルンは色白で金髪だ。ただ二人ともガタイはそれなりにいい。そこは魔導士や僧侶系の特性を持つ生徒たちとは違っていた。

 

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