哲学者にも恋の行方は分からない<プラトニックアース>

十三岡繁

第1話 プロローグ

 その世界には女しかいなかった。もう随分と前にそうなってしまったので、なぜそうなったかを知っているものはここにはもういない。人以外の動物や魔獣にはオスとメスがいるので、遠い過去には人にも男という存在があったことはみんな知っている。でも現在男はここにはいないのだ。


 ではどうやって子孫を残しているのかと言えば、そこは魔法の出番だ。恋愛感情があっても無くても、この人だと思った二人がペアを組んで、自分達の生殖細胞の遺伝子を魔法で融合させる。そうして二人がそれぞれに身籠る。同時期に妊娠して同時期に出産するのだから双子のような感じもするが、遺伝的には双子では無くて兄弟…いや、女の子二人だから姉妹という事になる。女同士の遺伝子を融合するのだから、決してそこから男が生まれてくることは無い。


 男がいなくなってからという程ではないが、魔族と人族が争うのを止めてからもかなりの年月が経った。あるとき事もあろうに魔王と勇者がペアを組んで子供を身籠った。流石にこの希少種同士のカップリングに世間はざわついたが、利己的な二人がペアを存続させる事は無理だろうと殆どの人が想像した。案の定すぐにその想像通りになった。懐妊中にも関わらず程なく二人はペアを解消し、それぞれに娘を一人ずつ授かった。


 魔王の元に生まれた娘はファティマ、勇者の娘はノルンと名付けられた。母親の魔王と勇者は早々にペアを解消したことが功を奏して、その関係が悪くなることは無かった。二人の娘は違う境遇ではあったものの、すくすくと成長し生後18年が経過した。


 この二人が魔族と人族が協同で設立した共立魔法大学校に通い始めたところからこの物語は始まる。

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