第9話 進む先へ

 進路相談は、理人の後だった。理人が終わって、親と教室から出てきた。

「ありがとうございました」

 お礼をして、理人の父親と次の番の母さんが挨拶をした。俺たちは目線を合わせた。理人は父親の前だったからか、少し恥ずかしそうだった。


「先生、遠慮えんりょなく言ってください。これは、親の責任でもありますから」

 いきなり、何を言うこの母親。先生は母さんの迫力はくりょくに少し引いていた。そんなに俺をしかりたいのか。

「和人君は頑張ってますよ、バイトしながら勉強も。よく両立されていると思います。このまま頑張れば志望校の範囲に入っているので可能かと……」

 二人で、先生の言葉に安堵あんどした。昨夜、話し合いと言う名のケンカをしたばっかりだったからだ。もし、先生から厳しいこと言われたら、今晩、もう一ラウンド戦わなければならない。

「ありがとうございます」

 よし、これで終わった。ちょろいもんだぜ。早く終わろうと立ち上がろうとした瞬間……

「先生、うちの子は学校でご迷惑お掛けしてないでしょうか」

 おい! 粗探あらさがしと言う名の質問はオプションで有料だぞ。次待っている人もいるし延長料金が発生するから、早く立てよ。仕方ない、先生にウルウルの目で見つめた、届いてくれ俺の想い。


「へっ? ああ、学校生活ですか。いや、そんな迷惑だなんてないですよ。よく、クラスを、まとめていますよ」

「まとめている? 先生、誰か他の子と間違えてらっしゃいませんか」

 失礼な、自分の子どもだぜ、これは後でうったえないとな。

「いやいや、お母さん。和人君はクラスのムードメーカーでもありますから。自然と人が話しかけて笑っているのを、よく見かけますよ」

「まあ、お家では生意気なまいきなんですけどね、心配で、そうですか。この子が……」

「はい、なので大丈夫ですよ、頑張ってます」

「ありがとうございます」

 俺は、先生の担任の生徒で良かった。ありがとう、先生。


 学校に出ると、母さんと二人で歩きながら早速さっそく訴えた。

「何だよ、他の子と間違ってるって。先生が間違えるわけないだろ、恥ずかしい」

「ちょっと確認してみただけじゃない。でも……あんたちゃんとやってんのね。なんで、家でもっとしっかりしないのよ。そしたら、うるさく言わなくて済むのに」

「ほら、家って休むところじゃん」

「いや、カッコいくないから。私が休まらないわ。でも、お母さん嬉しい。よし、今日はあんたの好きなカレーにしようか」

「いいね、カレー久しぶり」

 家に帰ろうとすると、グイッとつかまれた。

「ちょっと、あんたどこ行くの」

「どこって、家だけど」

「カレーを作るんだから、スーパーに行くのよ。特売があって、一人何個までってあるんだから。どうせ、帰ったって寝るんでしょ」

「嫌だよ、一人で行けよ」

「だめよ、荷物あるんだから一人じゃ持てないわよ」

 二人で押し問答しながら、スーパーに向かった。精一杯せいいっぱい抵抗ていこうしたが母さんの力は強すぎて逃げることはできなかった。


























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