第10話 変化に触れて

 恥ずかしい、母親とスーパーなんて早く終わって逃げ出したい。知り合いに会いませんようにと心の中で願う。もし見かけたら相手に気づかれぬよう、どうやって身をひそめようか、頭の中で考えた。

「う~ん、どっがいいと思う? 小さい玉ねぎ三個入と、大きい玉ねぎ二個」

「どっちでもいい」

「ちょっと、家の家計にかかってんのよ、暗算してどっちがお得か教えてよ」

「安いのでいいじゃん」

「そうねえ、でも使い切れるかしら」

「聞くなよ、じゃあ」

 この会話が所々ところどころで発生した。

「あっ、牛乳あった? もう飲んだっけ、まだある?」

「買っとけば、どうせ隼人が飲むだろ」

 隼人は、背が伸ばしたくて牛乳をよく飲んでいる。


 スーパーは、夕方のお客さんで少しずつ混み始めていた。

「そういえば、この間遅くなった時、優紀ちゃんとなんかあった?」

 危うく、積み上げられたお菓子に腕が当たりそうになった。

「なんで? な、何もねえよ」

 知らないよな、大丈夫、でも、きっと知るのも時間の問題だろう。冷汗が出てきた。

「あ、そう。あちらのお宅から遅くなるって電話があったから、遅くまで居て、ご迷惑だったんじゃないかしらと思って。いつもより遅かったから心配だったから良かった、連絡あって」

「ご、ごめん。心配かけて」

「いいのよ、ほら付き合いってもんがあるでしょ。連絡さえあればいいから」

 母さんは、まじまじと野菜を選んでいた。なかなか、理解のある親で良かった。

「友達は大切にした方がいいわよ。大人になるとなかなか友達ってできないから」

「そうなんだ」

「大人になると忙しくなって、友達はなかなか作れなくなるから」

「そうなんだ」

 母さんは優紀の母さんと仲が良い。時々、お互いの家で話をしたりしている。それで俺は優紀と遊んだりしていた。


「こんなもんかな。ちょっと、買いすぎたかな」

「買いすぎだろ。必要な分、買おうぜ」

 カートをレジの方向に進めながら、見直した。

 すると、商品の補充作業をしている男性がいた。その後ろ姿には見覚えがあった。

「ん、知り合い? 声掛けなくていいの」

「うん、いいのいいの。仕事中だから、回り道していい? 隣から行こうか」

 ゆっくりカートを隣の方向へ進めた。

「お母さん、レジで会計しているからいいわよ。行っておいで」

 少し、顔がほころんでしまう。


「いいのいいの、俺の嫌いな奴だから」

































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