第8話 手に入らないもの

 歩は、大きくため息をついた。

「ああ、ムカつく。なんで、お前は金もないのにバイトばっかして、つまらないのに。お前んとこ行くんだよ。だから、お前嫌いなんだよ」

 どうした、急に。これが、こいつの本性か。

「お前が何ヶ月もバイトして我慢している間、俺はすぐ手に入る。新作スニーカーだって、イヤホンだって、携帯だって。皆、俺に羨ましいって寄ってくる。でも、お前だけ俺を虫けらのように見てる」

 だから、俺もお前のこと嫌いだからだよと言いたかった。しかも、虫けらって、虫に謝れよ。お前より頑張っている。

「いいじゃん、別に。全て、簡単に手に入るし。俺はお前が羨ましいよ。そろそろ進路相談だってあるだろ、きっとお前は行きたいところを気にせず行く。俺は、金がないから学費で行けそうなところになるだろう。そして、いい会社に入って金持ちになって、女の子にモテるんじゃん」

 ふーっとため息をついた。そして、俺は歩に言い放った。


「――って、言うと思ったかよ。バーカ。俺は自分の力で手に入れていきたいんだよ。お前の恵まれた環境にうらやましく思うほど、嫉妬しっとするひまねえんだよ。バカにするのは勝手だけど、人の欲しい物見せつけてあおっといて文句いうの止めろよ」

「何だよ、それ」

「気づけよ、自分のやっていることが恥ずかしくて、お前になんで人が寄ってこないか」

 歩は、段々顔が赤くなっていた。

「親が忙しくて、金で愛情をめていたのか知らねえけど、お前が構ってと、もがけば、もがくほど必死にやっているのが見てらんなくてな」

「う、うるさい! 別に、俺は親が……あの人たちが進路相談に来なくても、何ともない。代わりにお金をもらっているんだから」

「お前のやってることはさ、無いものねだりなんだよ。俺の欲しいものを全部、身に付けたって、奪ったって、お前は俺になれない。優紀だって手に入れられなかっただろ」


 俺は、横を向いた。歩の問題は簡単だった。

「お前さ、親に金はいらねえから、進路相談に来いって一度行ってみろよ。忙しいとかじゃなくてさ、俺の親なら来てくれよって気持ち言えばいいじゃん。金で自分の気持ち誤魔化ごまかすんじゃなくてさ、それじゃあ、いつまでっても満たされないままだぞ」

「お前に、俺の何が分かるんだよ。俺だって……」

「分かりたくねえよ、俺だって。面倒くせぇよ、だけど見せびらかす理由は振り向いて欲しいからだろ。本当に欲しいものは手に入れるまでに皆、もがいているんだよ。大切なものを見失うほど、必死に頑張って手に入れようとしてるんだよ」

 本当にイライラする。こっちは、その瀬戸際でやってんのに、こいつの寂しさに構ってられるかよ。


「まぁ、お前が本当に欲しいものが見つかった時、自分で手に入れたら変わるかもよ。お前という人間が自分で分かるかもな」


 俺は教室を後にした。ここまで言って分かんない奴だったら、しょうがない。歩は足りないものを代わりの何かで埋めようとしていたようだが、それは埋められるはずはない。それは、ただ自分から逃げているだけだから。


























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