第7話 いつもの中で

 いつもの朝が始まる。体がベッドに沈み込んで、遠くで声が聞こえる。

「かず、早く起きて! 和人、遅刻するって」

 起きてるって、頭は……。体が起きてないだけで。マズい、また来る、早く起きなきゃ。ゆっくりと体を起こして、ボサボサになった頭をく。ヨロヨロと、入り口に向かう。

「何してんの、早く降りてきなさいよ」

「起きてるって」

「起きるてるってのは、顔洗って歯磨いて、テーブルに座っていることよ」

「分かった、分かった」

 朝から騒がしい。毎日よく頑張ってる、俺。心の中で自分を励ます。


 朝ご飯を食べると、いつも聞いてしまう。これは、もう癖だ。

「親父と隼人は、もう行ったの?」

「あんたと私だけなのよ。早く食べて食べて」

 なんか、言うことあったような。昨日遅かったから明日言おうって……あっ。

「お母さん、来週、進路相談ってのがあってね」

 カバンから、お知らせのプリントをテーブルに上に置く。

「ああっ!来週って、すぐじゃない。なんで、すぐに渡さないのよ。休み取らなきゃいけないのに。取れるかしら」

「いや、これさ、昨日配られたんだよ」

「そんなことないでしょ、プリントの作成日が一週間前の日付よ」

 ヤベッ、バレた。仕方ない、そのまま行くか。


「じゃあ、俺行くね。行ってきます」

「あっ、帰ってきたら話よ。気を付けて」

「はーい」

 自転車をぎ出す。良かった、帰ったら大変だけど。毎日、うるさいことばっかり、この時間が一人で落ち着く。気持ちがいい風と風景。今朝の気分に合った音楽をかける。学校に着くと、駐輪場で自転車を置いた。

 

 教室に向かっていると、後ろから声が掛かった。

「おはよう」

 優紀だ。なんか、昨日のことを思い出して、直視ちょくしできない。

「おはよう、大丈夫?」

「うん、昨日はごめんね。あのあと、大丈夫だった?」

 横からのぞき込む。俺は、こんなに気にしているのに、こいつは平気なのか。昨日のこと……まだ余韻よいんが残っている。

「ああ、大丈夫だったよ。怖かったけど、なんとか帰してもらった」

「そっか、お父さん怒ってたんだろうなって。私、部屋から出れなかったから」

「う~ん、まあ、でも……」

「でも? でも何?」

 やっぱ、止めよう。親父さんが寂しそうだったなんて、プライドってもんがあるから。娘には知られたくないよな。

「いいや、何でもない。早く行こうぜ、遅刻する」

「ちょっと、待って」

 教室に駆け出して向かった。良かった、前と同じ日常が戻ってきた。


「和人、ちょっといい?」

 歩だ。呼ばれるとしたら、優紀のことだ。気が重い。誰もいない空き教室で、俺らは話をした。他に二人になれるところはないようだ。

「何だよ、忙しいんだけど」

「悪いね、優紀さんのことだけどさ。俺、振られちゃって」

「知らねえよ、そんなこと別に俺が知ることじゃないだろ」

「まあ泣きながら、好きな人がいるって言ってたからさ」

 知ってるし、だからって言わなくていいことだ。

「好きな人は、和人だよね」

「だとしたら、何だって言うんだよ。お前、本当は優紀のこと好きじゃないだろ」

「そうかもな、和人が持っているもの欲しくなったんだよ」

 歩は笑っていた。段々、可哀かわいそうであわれに見えてきた。

「お前さ、人のものじゃなくて自分の欲しい物、手に入れろよ。別に俺じゃなくて、もっと上のヤツと張り合えよ。こんなことしてもむなしいだけだろ」

 歩が、なんでそんなことをしているのか分からないが、見栄を張って自分を傷つけているようにしか見えなかった。

















































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