第6話 お互いの想い
顔を上げて、優紀を見ると涙が流れていた。涙を手で
「困ったなぁ、どうして? いや、ごめん。もうズルいなぁ、そんなこと言われたら分かんなくなるよ」
「ごめん、別に泣かすつもりじゃ、追い詰めていたらごめん」
「ううん、この間突き放したじゃん。でも、今は優しい。なんで? 私考えたんだよ。かず君は幼馴染だけど、それ以上はなくて迷惑なんだって」
「迷惑って。何が? 別に幼馴染には変わりはないし、ただ優紀には高校生活の大切な時間を楽しんでほしいというか。俺はバイトばっかりだし、欲しいものは沢山あるんだけど、お金ないし。他の男との方が時間と金あるから楽しいって」
「――やっぱり、好きだよ……」
「えっ?」
「そんなに優しいの。ズルいよ、こんなに想わせといて」
また、優紀の涙が
「私、歩君に告白された。でも好きな人がいるからって断った。かず君に会った日だよ。前にこの公園で話した日」
俺以外に、他の男と話せよって言った日だ。
「怖くなって、その後公園で話して、その日に自分の気持ちを伝えたくて……私が欲しいものは、昔から変わらないよ。ずっとお願いしてきた。たった一つ」
財布の中から、ボロボロになった
「これがずっと欲しかったもの」
俺は、優紀の為を想って離れようとした。自分が欲しいものは優紀もそうだろうと思っていたが、実際には優紀の気持ちに見て見ぬ振りをしてしまった。そして、それが人に渡るなり埋もれて無くなりかけてて。俺は欲しい物ばかりに目が行き過ぎて、目の前にある大切なものを見失っていた。でもそれは、自分の想いでもあった。
優紀は、ブランコから降りて俺の腕をゆっくりと
「好きだよ、かず君。すぐに忘れることはできないかもしれないけど。でも、この気持ちだけは伝えさせて。時間はかかるけど、きっと諦め……」
「待って、違うって!」
気づいたら優紀の腕をガッと強く
「俺、歩が優紀に告白するって聞いて、歩は俺の欲しい物を持っていたから。今度は優紀まで欲しいと。でも決めるのは優紀だし。俺は、何も持っていない訳で、本当は優紀まで歩のところに行ったら、どうしようと怖かった」
「もう、嫌だよ。他の男となんて……言わないで」
「ごめん。俺も好きだよ、優紀」
強く離れないように抱きしめ合った。
「今、何時だと思っているのかな。和人君、うちの娘をこんな時間まで。一体何をしていたんだい?」
「本当にごめんなさい」
言えるわけがない、この親父は怒らせると無事に家に帰れるかも分からない。ここは、ひたすら謝る。
「和人君も良い年だよな。男同士の話をしようじゃないか」
ヤバい、親父、母さん、隼人、今までありがとう、そして大好きです。
「はい」
優紀の親父さんに呼ばれて、庭の
「心配するな、家には電話入れておくから」
「はい」
「今日は
「はい」
「いつ
「はい」
「さっきから “はい” しか言わないが、大丈夫かお前」
「大丈夫っす」
「まあ、いいや。お前、優紀のこと本気で好きか」
「はい、好きです」
「いつから」
「小さい頃は分からなかったんですけど、最近になって大切な人だと分かりました」
「お前、バイトやってるのか」
「はい、欲しいものがあるんで」
「欲しいものがあって、自分で働いて金を貯めるってか。悪くない」
ふぅ、無事帰りたい。いつまで続くんだろう。
「優紀が、昔からお前のことを好きなのは知っていた」
「すみません」
「大切に育てた娘に、好きな男ができてしまってるんだから、
「はい」
「娘が “ お前から他の男と話せと言われた ” って聞いたとき、殴ってやろうかと思った。失恋で泣いてて、傷つけやがって。でも、よく聞いてみたらさ、働いてばっかりだから、他の男へ行けって言ったんだろ」
「はい」
「俺もお金がなかった時、一回女房に言ったんだ。結婚する前な、俺じゃあお前を幸せにできないって、覚悟がなかったんだよ。でも、嫌だって泣きつかれて。それをふと、思い出してな」
「すみません」
「俺も分からなかった。金がないって理由で手放しちゃいけないものってあるんだよな。また、金がないからって
「卑屈?」
「ああ、お前が人と比べて落ち込んでしまうこともあると思うけど。別に、お金のないお前でも持っているものあるよな、離れて行かないやつ」
「はい、友達とか家族とか」
「そうそう、それが手放しちゃいけないってヤツ。例え、お前がお金を持っていなくても、関係ないから。まあ、うちの娘もそういう風に大切にしろってこと」
「すみません、入れてなくて」
「いいって、今日はもう疲れたろ。ゆっくり休んで寝ろ。悪かったな遅くまで」
「いえ、失礼します」
家を出ると、月明りで夜道は明るかった。俺は大切なものがなんなのか、自分が何に
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