第5話 悩みの狭間で

 次の日、学校で優紀を探して母さんに言ったことを問い詰めようとした。しかし、歩の言葉を思い出し、ピタッと足が止まった。

「何やってんだ、俺」

 俺から優紀を離したのに、近づいてどうする。逆の方向に向かって教室に戻った。もう歩は優紀に告白をしたのだろうか。歩の様子を見ても分からなかった。どうでもいいことなのに、気になる自分がいて腹が立つ。


 樹と理人で昼飯を食っている時に、進路の話になった。

憂鬱ゆううつだね、来週、進路相談だよ」

「そうだな、親とちゃんと話し合って来てくださいって。無理だよな」

 進路相談か……面倒だな、考えるのも、親と話をするのも。

「多分、説教されて終わる気がする」

「俺も」

 樹と理人は落ち込んだ。

「和人はどうなの? 親と仲いいからいいよな」

「いや、別に良いってわけじゃねえよ。あっ、遅くなってごめん。これ借りてたジャージ。母さんがさ、お礼と謝りなさいって。ごめんなさい、ありがとうございます」

「いいって、そんな気遣うなって。俺も何か借りる時あるかもしれないし」

「――多分、俺から貸すはない……」

「ハハッ、いつも逆だもんな。借りることはあっても貸すことはない」

 理人が笑った

「お前、何笑って言ってんだよ」

 ふと、優紀と歩のことを思った。まあ、別にいいんだけど。ご飯を食べ続けた。


 欲しいものがあると、バイトにも力が入る。俺が働いているのは家の近くの喫茶店で、ホールを担当している。来たお客さんに席を案内してオーダーを受けて、運んでと忙しい時は大変だ。勉強と両立しなきゃいけないのも大変だが、自分で決めたことだ。俺は、余計な事を考えないように働いた。優紀と歩のこと、気にしてもしょうがないこと。


 数週間経った頃、優紀の友達が俺のところに来た。優紀が学校を休んでいるとのことで、心配して幼馴染の俺が何か知っているんじゃないかと訪ねてきた。

「え、休んでいることなんて知らなかったし。何も聞いていない」

「そうなんだ、心配だね。もう、三日くらいになるから」

「携帯に連絡入れればいいじゃん。もしかしたら体調崩してるとかさ」

「うん、調子悪いみたいだけど、大丈夫だよって。こんなこと初めてだから」

「もう少し様子見て、先生に聞いてみたら」

「そうだね、ありがとう。じゃあ、行こうか」

 数人が立ち去った後、一人が戻ってきた。

「あ、あの……」

「何?」

 何か言い忘れていたのかと思った。言い出しにくそうな感じでモジモジしていた。

「もしかしたら、考えすぎかもしれないんですけど。優紀、前にボールが木の枝に引っ掛かった時 “ かず君に取ってもらった ” って、すごく嬉しそうに話してて。何かあったのかなと思って、すみません。何もなければいいんですけど、失礼します」

 慌てて、頭を下げて走っていった。


 えっと、これは俺はどうすればいいんだ。何も分からず、どうしたらいいのか頭をいた。バイト終わりの帰り、家に向かう途中、優紀の家の方向に気になって歩いてみた。途中、公園に目をやるとブランコに一人座っている女の子がいた。優紀だ。

「おい、学校休んで何してんだよ。危ないだろ、こんなとこで」

「あっ、かず君。今、帰り? バイト?」

「うん。俺のことは、どうでもいいんだよ。どうしたんだよ」

 隣のブランコに座った。月明りが明るくて、満月の夜だった。ゆらゆらと二人の影が動く。街灯の明かりに、小さな虫が集まって飛んでいた。


「上手くいかないね、人生」

「どうしたんだよ、急に」

「昔は楽しかったね、かず君と遊んだ時が一番楽しかった」

 優紀は何に悩んでいるのだろう。俺にはそれが分からなくて、もどかしかった。

「進路ってさ、もう決まった?」

「進路? まだまだ迷っている。絞っている段階」

「そうなんだ、私ね行きたいところあるんだけど、親に言い出せなくてさ」

「何で? 何か言われるの」

「一応、パンフレットを見せようとしたんだけど。なんか流されちゃって」

「ああ、そうなんだ」

「いくつか受ける予定だけど、本当にやりたいことを話したかったなあって」

 そういや、優紀のお母さんとお父さんは、ちょっと難しい人だった。優紀はいつも気を遣っている感じで、俺の家見てずっとうらやましいって言ってた。でも、優紀は俺に持っていないものを沢山持っていて、その言葉の意味がよく分からなかった。


「優紀の親父さんって、怖かったっけ?」

「怒ると怖いね」

「思い出した。そういえばさ、優紀の家の裏庭で、水鉄砲みずてっぽうで遊んだの覚えてる?」

「うん、覚えているよ」

「あの時さ、二人ともビシャビシャにれててさ、蛇口じゃぐちから入れて使ってたから、水いっぱい使って怒られたよな」

「うん、かず君が “ 優紀を怒らないで ” ってかばってくれた」

 二人とも夢中になって遊んでいたら、最後に優紀の親父さんに怒られて泣いた。


「だからさ、もし親父さんに進路のこととか言いづらいことがあったら俺をしに使えよ。それで自分のやりたいことや、行きたい気持ちを伝えるだけ伝えてみろよ」

 優紀が少し笑った。

「どうやって、出しに使うのよ。進路は自分で決めるもんじゃん」

「俺も良いって言ってくれたって。お前の親父さんに一回怒られているからさ、別に殴られてもどうってことねぇから。それより、お前が自分の気持ち言えなくて苦しんでいる方がキツイからさ」

 優紀の表情が、少しずつ変わっていった。月明りに照らされて、細かいところは見えなかった。

「だからさ、学校に来いよ。一人になるなよ」

 ゆっくりと感情から、言葉に変えて伝えた。






















































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