第4話 葡萄とお礼

 ブランコをゆっくり揺らしながら、話し始めた。

「えっと、久しぶりだね。ここで遊んで以来何年ぶりかな」

 いつもの優紀と少し様子が違っていた。もしかしたら、歩に告白されたのかもしれない。まあ俺には関係ないが。


 欲しいものは、バイトして買っていた。お小遣い貯めてもいいけど、うちはそんなに裕福でもないし働いて得たお金の方が堂々と使いやすい。彼女が出来たとしても俺はお金がないから、一緒に遊びに行くこともむずかしいだろう。優紀のことを考えたら、俺より歩の方が楽しいかもしれない。今の俺には欲しいものが山ほどあって、それが何より優先だ。

「あのさ、優紀。お前って、好きな人でもいるの?」

「ど、どうしたの、急に」

 優紀が驚いた表情をした。

「いや、俺って幼馴染だけどさ。俺、バイトばっかりだからさ、他のヤツとの方が楽しいと思って。彼氏とか欲しいと思わないの」

「それは……いたら楽しいのかな」

 優紀が寂しそうな顔をしているのが痛いほど分かった。でも、昔とは違うこれ以上、俺は優紀を楽しませることはできない。いつも入り込んできた領域りょういきを、静かにシャットダウンした。


「お前もさ、高校生なんだから、もう少し俺以外の男と話せばいいじゃん。俺より良い男なんていっぱいいるだろ。別に気にしなくていいからさ」

「そうだね、ごめんね」

「いいって、家まで送っていくからさ」

 優紀を家まで送ると、少し元気がなかったように見えたが仕方がない。

「じゃあな、俺、行くから」

「うん、ありがとう。ねぇ幼馴染でも、ダメかな」

「えっ、何?」

 声が聞きとりづらくて何を言っているのか、分からなかった。

「ううん、何でもない。またね」

 慌てて、家の中に入っていった。お互いの為に、これでいいんだ。


 家に帰り、そのあと母さんと弟の隼人が帰ってきた。

「ただいま、あれ?今日バイト休みか。って、あんた何食べてんの」

「お帰り、お腹空いちゃってさ、そこにあったカップラーメン食べてる」

「夕飯、食べれなくなるでしょう。あっ、ちゃんと洗濯出したんでしょうね」

「うん、樹から借りた。洗って返さなきゃ」

「あら、樹君困るでしょ。もう、ちゃんとしてよ」

 なげきながら、スーパーで買ってきたものを冷蔵庫にしまっていた。

「隼人、お前、葡萄食った?」

「葡萄? 食べてないよ。なんで?」

「ギクッ!」

「俺らには葡萄無くて、優紀のところに持っていたのかよ」

 母さんは立ち上がって、反撃をした。これぞ母の強みかというほど。

「だって、あんたたち果物買ってきて切って置いてても食べないでしょ。優紀ちゃんとこから、野菜もらったんだから何か返さないと悪いでしょ」

「あったら、食べるって。なあ、隼人。俺ら可哀そう。」

「その言葉、何度も聞きました。そして食べなくてお母さんが食べてるんです。もう、そのおかげで太っちゃうんだから」

 絶対に違う。夜、録画観ながら何か食ってんだろ。


 ガチャ。ドアが開いた。

「ただいま。今日は早く帰れた。あれ、皆お揃いでどうしたんだ」

「親父、お帰り。お母さんがさ葡萄もらったのに……」

「やめてよ、和人あんた何言ってんの。お帰り、夕飯の支度するね」

 母さんに口を押えられた。

「久しぶりに皆で食べようか。和人も隼人も大変だろ、忙しくて」

「親父こそ、疲れてんだろ。お疲れ」

 親父と隼人は性格が似ている。大人しいけど優しい。俺も……親父に似たかったけど、よく母親に似てると言われる。久しぶりの家族そろって夕飯。いつも忙しくてバラバラだけど、別に寂しいとかはない。こうやって合う時は話しをしている。


 四人で久しぶりに夕飯を食べた。母さんは心なしか、どこか嬉しそうだ。

「どうだ和人と隼人、学校の方は」

「うん、忙しいよ。勉強とか部活とか」

 隼人は部活をやっているから朝練とかで忙しい。今日は早く終わったようだ。さっきから母さんがニヤニヤして、こっちを見ている。目をそらして言った。

「何だよ、さっきから」

「あんた、言うことあんじゃないの?」

「なんだ? どうかしたのか」

「別に、何もないけど」

「そう、じゃあ私から言うわね」

 母さんが間を持たせた。何かあったっけ。

「ちょっと聞いて、今日うちの和人君は学校で良いことを行いました。体育の時間に木の枝に引っ掛かったボールを取ってくれたそうです」

 一人で拍手をした。

「そこで女の子から大変感謝されたそうですけど、和人君は当たり前のようにサラッと去っていったそうです」

「へぇ、兄貴カッコいい」

「おいちょっと、誰から聞いたんだよ」

「やるなあ、お前も」

「んふふ、そこでお母さんは大変嬉しく思いました。よっさすが、我が息子。」

「やめろよ。もう、やる気失くす」

 アイツしかいない。後で言わなきゃ。


「俺に似たんだろうな。若い時の俺にそっくり」

 始まったぞ、良いところは自分に似て悪いところは配偶者に似たという謎のアピール。隼人も空気を読んで、黙々と食べている。

「私だもん、私の方がモテたもん」

「そこ? そこ張り合うなよ、子供の前で、いい年してみっともない」

「まあ、あんたも大人になって、いっちょ前にそんなこと言うようになって」

「そうだな、俺らも年をとったって証拠だな」

 こうして、なんとか一家団欒いっかだんらんを過ごすことができた。












































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