第3話 幼馴染の位置

 体育は外でソフトボールだ。樹から借りたジャージを汚さないようにしなきゃと注意した。ちょうど、守備になったのでグランドに出てライトの方についた。グローブをはめて、一応手を振って、さぁ、来ーいとの抜けた声で言ってみる。本当に来たら怖いから小さめの声で言った。ピッチャーの調子がいい、もうツーアウト。あと一つで交代だ。ちょうど、後ろの金網越しには女子がテニスをやっている。


 気づかなかったが、後ろを見ると木のところに数人女子が集まって上を見ていた。その中に優紀もいて、俺に気づくと近づこうとした。

「あっ、かず君……」

 俺は慌てて、優紀が来ないようにジェスチャーで止めた。

「危ないから、来るな。ボール来るかもしれないら。待ってろ」

 よし、スリーアウト交代。攻撃で戻ろうとしたタイミングで優紀に近づいた。

「どうした? 何かあったのか」

「うん、木の枝にテニスボールが引っ掛かって。届かなくて、かず君なら届くかなと思って」

 竹ほうきのの部分でつついて、落とそうとしていた。何人かつま先を立てて、つつこうとしていたが枝に届いていなかった。

「いや、無理だろ」

「どうしよう」

 木の枝を見ながら近づいて考えた。脱いだグローブを下から投げて、木の枝に当てた。引っ掛かったボールは、当たったグローブと一緒に落ちてきた。

「やったぁ」

 落ちたグローブとテニスボールを拾って、優紀に渡した。

「危ないから金網の中にいろよ。ボールに当たるぞ」

「ありがとう、かず君」

 優紀は、女子とキャキャと話しながら戻っていった。


 体育が終わって着替えて教室に戻るところ、歩に呼ばれた。授業が入っていない空き教室は、電気をつけていないと昼間でも薄暗かった。

「何だよ、急に話って」

「まあ、和人が俺のことあんまり気に入ってないのは分かるよ」

「話って、それか。じゃあ俺は行くから」

「待てよ、君の幼馴染のことだけど」

「優紀? 何だよ」

「いいよな、優紀さん。しかも幼馴染なんて。俺、気になってさ」

 歩は、どうやら俺の欲しい物だけでなく、周りのものも欲しいようだ。きっと、木の枝に引っ掛かったボールを見ていたのだろう。

「優紀さんのこと好きになったかもしれない。告白してもいいかなって、一応幼馴染の和人に一言言っておこうと思ってさ」

 こいつといると、やっぱりイラつく。宣戦布告せんせんふこくのつもりか。

「お前さ人の気持ちとか横取りみたいなマネして悪趣味だな。勝手にしろよ。優紀が決めることであって、なんで俺に、わざわざいう必要があるんだよ。確かに、お前が持っているものは俺が欲しい物ばかりだ。だから何だよって、それだけだから」

 そう言い放って、教室を後にした。


 この日はバイトが休みだった。家に帰って何しよう。自転車を駐輪場から出して、校門に向かった。校門は、樹と理人が歩いていた。

「おう、樹ジャージありがとな。洗って返すから」

「いいよ、急がなくて。あんまり使わないし」

「今日バイトあるの?」

 理人が聞いていた。

「休みだよ」

「ええっ、遊ぼうよ。一緒にいよう」

 理人が抱き着いてきた。

「気持ち悪いな、ごめんな。今日は小テストの勉強しないと明日マズいからさ」

「俺たちもそうだった。残念、また今度遊ぼう」

「いいよ、今度な」

「あんま、無理するなよ」

「ありがと、また明日」


 樹と理人に校門で、別れて自転車に乗った。バイトが休みの日で、学校の帰り音楽を聴きながら帰る、一番好きなタイミングだ。


 しばらく走っていると前に、自転車に乗った優紀がいた。

「優紀、今帰り?」

「あっ、かず君。ちょうど良かった。今日ありがとね、助かったよ」

「別に良いって。そんな大したことじゃない」

「そうだ、かず君。ちょっと時間ある?」

「何?」


 優紀と昔遊んだ公園に行った。何もかもが小さかった。滑り台やら鉄棒、砂場。昔は大きく感じたのに。自転車を止めて、久しぶりに鉄棒で逆上がりをやってみた。

「やった、もうできなかいかと思ったらできた。これ昔出来なくて、ずっと親父と練習してたな」

「そうなんだ、私はスカートだから出来ないや」

 滑り台も、小さくて狭く感じた。あの頃は大きくて、少し怖かったのに。一通り遊び終わると、ブランコに乗って話をした。

「はい、これ。葡萄ジュース。今日のお礼」

 自販機でジュースを買ってきた。

「別に、葡萄じゃなくても、分かったよ。ありがとう」

 一瞬、ムッとした優紀の顔を見て慌てて受け取った。俺たちは母親が仲が良いのと近所に住んでいることで幼馴染だ。こうやって一緒にいると、小さい時に戻る。いつも手を引っ張って、公園に遊びに連れて行かれた。こうやって優紀と話すのもの久しぶりだった。
















































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る