第2話 欲しい物に囲まれて

 教室に着くと、机の周りに友人が話していた。

「おはよう、和人。今日は間に合ったじゃん」

「うるせぇな、いつも間に合っているよ。何、話してんの」

あゆむのヤツ、また新しいスニーカー買ってもらったんだって」

「いいよなあ、羨ましい」

 いつもツルんでいる、いつき理人りひとだ。二人は遠くで、スニーカーを自慢している歩を見て話していたようだ。

「ふーん、親の金だろ」

 教科書を机の中にしまいながら、リュックを真後まうしろにあるロッカーに置いた。席は一番後ろのはしっこだから、ロッカーが近い。便利な位置だ。


「いやあ、でも羨ましいよ。俺もあそこの家に生まれたかったな。だって、持っているもん全部、新しいもん」

 理人が羨ましそうに、見つめた。

「お前はどうだろうな、合わないだろ。樹、ジャージ貸してくんね?」

「なんだよ、合ってるだろうよ。お前には俺の溢れ出た気品が感じないのかよ」

「ジャージ? いいけど、忘れたの?」

「いや、洗濯出してなくてさ、朝から親にうるさく言われちゃって」

 樹からジャージを受け取った。サイズが同じくらいで、暑がりだからジャージはあまり着ない。

「ありがと、ちゃんと洗濯して返すからさ」

 よし、これでジャージの問題は解決した。


「ちょっと、俺の話聞いてた? 和人」

「聞いてるって、引っ張るなよ。また、親に怒られるだろ」

 理人が制服の端を引っ張る。つい、引っ張り合ってボタンが取れて怒られたばっかだった。樹が、それを見て笑った。

 すると歩が、じゃれ合っている俺たちに近づいてきた。それに気づいた俺らは、静かになった。

「おはよう、和人。元気?」

「いつも通りだよ、どうした?」

 俺は、歩があまり好きじゃない。新しいものを手に入れた時は、いつもこうして周ってくる。まるで、俺の欲しいものを身に付けて見せびらかすかのように。

「バイト、最近忙しいの?」

 うるせぇな、いちいち人の事聞いて自慢してくんじゃねえよ。心の中で吐いた。しかも、俺は歩にバイトしていることを言ったことはない。どこからか聞いて来たのだろう。心に思ってもいないことを言われて、イライラしてくるのが分かる。

「まあまあかな。普通」

 それを見て、理人が割り込んできた。多分、俺の表情がくもっているのに気づいて焦ってきたのだろう。


「それより、歩、スニーカー新しいヤツじゃね。前と違うよな」

「ああ、これ、うん。まあ、前のヤツも良かったんだけど、きて来てさ。これ履いてんの。色も良いし」

「これ、高いよな。すげぇなお前ん家。しかも、携帯も新しいじゃん」

「まあ、俺じゃなくて、すごいのは親だし」

 早く、どっか行けよ。お前の自慢話なんか誰も聞きたくねえよ。燃え上がる感情を抑え込んだ。

「いつでも貸してやるから言って。じゃ」

 本当、嫌なヤツ。俺が欲しいの分かっていて、バイトしてお金貯めて買いたいの知っててワザと、見せに来る。

「しっかし歩のヤツ、親がすごいと、こう見せに来るんだな。なんか和人、変にライバル心持たれてない?」

 理人が立ち去ったのを見計らって、声を掛けた。樹も続けた。

「そうだな、わざわざ和人に声掛けてくるってのも変だな」

「知らねえよ。あんな奴」

 自分の金で買ったわけじゃないのに、自慢できるってその神経が俺には分からなかった。俺だって買える家庭だったら、こんな苦労しなくていいのかとも感じた。











































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る