無いものねだり

水上絢斗

第1話 毎朝の風景

 ベッドに深く沈んでいた。体の疲れが取り切れなくて、起き上がれずにいる。遠くで呼んでいる声が聞こえるが、頭は起きている。体が起き上がれずにいるだけだ。

和人かずと、かず! 早く起きて、何回呼ばせんの、遅刻するよ」

 うるせぇ……、起きてる……でも体が動かないだけだ。すると、下からドンドンと階段を上がってくる音が聞こえた。ヤベッ! 母さんが来る。反射神経的に体が起き上がった。部屋に入られるのが嫌で、起き上がる神経になっているようだ。一度どこかで止まっただろう時計のアラームをオフにして、携帯の画面をチェックし部屋の入り口で、母さんを阻止そしする。

「起きてるんだったら、さっさと降りてきなさいよ。もう、何してんのよ」

 朝から、大きい声が頭に響く。文句の一つでも言いたいとこだが、ここは早く母さんと一緒に降りる。


 顔洗って、歯を磨いて、相変わらずひど寝癖ねぐせを直す。昨晩、帰りが遅くなって、ちゃんと乾かしてなかったっけ。世の母親にお伝えしたい。個人的な意見だが俺たちが何言われても黙っているのは、エネルギーを消耗したくないというのがある。毎日忙しくて疲れてんのに言うと何倍も返ってくる、ヘタすら面倒になることを学習し、黙っている。例外な時もあるが。


「あれ、俺の学校のジャージは?」

「えっ、知らないわよ。洗濯物に出してた?」

「出したと思ったけど、今日使うし……」

「もう、出しておきなさいよ。そしたら洗って置いてあるでしょ。忘れたんじゃない」

「マジか……終わった」

「とりあえず、早く朝ご飯食べて、ほらっ」

 ため息と同時に座った。ご飯を頬張って、みそ汁をかきこむ。

「親父は? もう出て行ったの。隼人はやとは、もう行ったの」

「あんただけよ、いつも遅いのは。誰に似ちゃったのかしら」

「答えは簡単だよ、ここに残っている人じゃね」

「そうか私か、ごめんね。母親に似ちゃって……ってこら!早く食べて行きなさいよ」

 親父と弟の隼人は朝が早い。多分、朝方の人間だ。俺と母さんは夜型だ。遅く帰ってきた時は、俺を待っていたと言いつつ、めたドラマを見ている。いつものことだ。朝ご飯を食べ終わると、急いで支度して自転車に乗って学校に向かう。季節の変わり目は、吹きぬける風で分かる。心地いい風が吹き始めてきた。自転車を走らせながら、音楽を聴く。


 底のすり減ったスニーカーでペダルをぎ、充電の減りが早くなったイヤホンを気にしながら走らせる。学校まで充電持つかな、この曲はずっと聴いていたいんだけど。それによって今日一日のテンションが持つか、かかっている。


 自転車を駐輪場に置いて、教室に向かう。生徒も何人かまだ、歩いている。大丈夫、全然余裕だ。

「かず君、おはよう。昨日おばさんが家に果物持ってきてくれた。お母さんが、かず君に会ったらお礼言っておきなさいって」

 近所に住んでいる幼馴染おさななじみ優紀ゆきだ。小さい頃からの呼び名で呼んでくるから、恥ずかしい。

「お前さ、学校では、その呼び名やめてくれる? 俺らもう、ガキじゃないんだから。苗字みょうじで呼べよ」

「無理だよ、かず君はかず君だから、急に変えられないよ」

 ふぅ、頑固がんこなやつ。


「果物って、何? 俺、食べてないんだけど」

「そうなの? 葡萄ぶどうだよ。甘くて美味しかったよ」

「葡萄? あの母親め、俺も食べたかった」

「おばさんを怒らないで。あっ葡萄ぶどうジュース、おごってあげるからさ」

「いいよ、今朝けさもうるさかったし、朝からダルい」

「毎日、それ言ってんじゃん」

 優紀は笑いながら、俺は不満気味ふまんぎみに教室へ向かった。

















































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