第15話 改心
「なあ、離れてくれよ」
「・・・・・・やだ無理」
「・・・・・・どうしてかなぁ」
いつもの放課後、帰りの電車の中で天音が俺の右腕に抱きついてくる。いつもなら、離れて欲しいと言ったら離れてくれるのだが今日はご機嫌ななめな様子だ。
天音が少し動く度に、女性の象徴が形を変えて俺の理性を刺激してくる。だが、それを堪能できる余裕は無かった。
「また、あの女に言い寄られてたんでしょ?」
「別に言い寄られてた訳では無い。ただ、いつでも相談に乗ると言われただけ」
「・・・・・・は?あのゴミ女が?」
「言い過ぎだと思うけど・・・・・・」
「だって、夏実くんはあいつの何処でも話しかけてくる空気の読めなさが気に入らないんでしょ?」
「まあ、そうね」
「だったら、私が潰してあげる。安心して、絶対にバレない方法を使うから」
「・・・・・・潰すってのは具体的にどうゆう意味?」
「それはもちろん社会的にころ・・・・・・」
「ほら」
完璧にアウトな発言をする前に割って入る。聞かなかったことにしたいが、彼女は何をしでかすか分からない。俺が抑止力になるなら喜んでなってやろう。
「そんなことするな。お前を守ったのはそう言うことをして欲しいからじゃない」
「・・・・・・私は貴方を守るから。夏実くんから奪った物を私があげるから」
「何言ってるんだ、もうお前から沢山貰っただろ?」
「・・・・・・・・・え?」
赤裸々に話すのは苦手だが、ここでやるしかない。
「俺はお前を守った時、そこに打算的な考えは存在しなかった。だから後先考えずに人を殴ったんだ。それで人生を壊したのは俺だ。俺が全部悪いんだ。それ以外は誰も悪くない」
「・・・・・・・・・・・・」
「それに、お前は俺にくれただろ?」
「・・・・・・・・・私・・・が?」
「ああ、お前は俺に送れなかった青春をくれたじゃないか。プール掃除だって、カラオケだって、今もそうだ。馬鹿な俺に呆れずにそばに居るだろ?俺はそれだけで嬉しいんだよ」
ただただ恥ずかしい。俺らしくない。
「・・・・・・・・・本当に大丈夫なの?」
「ああ、もう平気だ。とりあえず離れてくれないか?」
「やだ。それとこれとは関係ないもん」
「・・・・・・・・・確かに」
「それに・・・・・・楽しんでいてくれたんだ。私との生活に」
「・・・・・・・・・当たり前だろ。ありふれた日常が1番幸せなんだから。あんまり知らないけど」
ニマニマしながら俺を見る視線がなんとも居た堪れないので顔を逸らす。すると、掴んで離さないでいた腕に開放感が戻る。
そんな事は今まで電車を降りるまで全く無かったので、おかしいと思い振り返ると天音は照れを隠すために伏し目がちに笑顔を零していた。
「そっか。そっか」
「ああ、うん」
「良かった、ありがと!」
俺を見て微笑むが、お礼なんて大層なもの貰えない。俺の方がいい青春を貰えたんだから。
「ま、そろそろ離してくれていいぞ」
「やだ〜」
その日は、俺の家に着くまで離さなかった。
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