第14話 相談

「あ、君!また会ったね」


「・・・・・・今沢先輩?」


梅雨が過ぎ去り、いつも通りの場所。昼休みに非常階段で1人ぬくぬくと風を感じながら過ごしていると、またあの人から声をかけられる。


いつもは下ろしているブラウンの髪が、ポニーテールで高い所で結ばれている。彼女は俺の横に来ると、頬杖を着いて梅雨の終わりの蒸し暑さを堪能していた。


「今日はポニーテールなんですね」


「さっきまで体育だったの。ん〜。風が気持ちいいね」


「体育で何やってるんですか?」


「ん?バスケだよ。でも私、美術部だからあんまり運動は得意じゃないんだよね・・・あむっ・・・・・・」


「・・・・・・・・・あむ?」


横目で彼女を見ると、購買で売られているハーフサイズのフランスパンを口いっぱいに頬張っている。顎の力が弱いのか、咀嚼する回数が異常に多い。


そもそも、購買でフランスパンを売っているこの学校と、買う生徒がいるということがかなりニッチである。


「ふっ。小動物みたいですね」


「え、そうかな?どんな小動物??」


「オコジョ」


「褒められてる気がしない!」


見た目の話をしているだけで性格の話はしていなかったので、その辺の配慮は一切していなかった。これは俺が悪いのか?


「ていうか、なんでフランスパンなんですか?」


「この前ね、天音さんが半分こしてくれたのを食べたんだけど、ハマっちゃって」


「・・・・・・天音・・・・・・ね」


彼女からその名前が出てくるという事は、俺と初めて接触する前から、関わりがあったのだろう。まあ、あっても全然おかしくない知名度だ。


「先輩からみて天音ってどんな子ですか?」


「ん〜。誰にでも優しくて、頭がいいのに驕らない。そして可愛い!」


「俺には優しくないですよ。雑用に使ってくるんで」


「それは、君に恋をしてるんじゃないかな?」


「っ?!」


それは唐突に、誰もがそんな考えすらしないのに、彼女はそれを予想した。


「そんなことあります?普通好きな人には、優しくしません?」


「私は、恋をしたことないけど・・・・・・でもわかる気がするの。厳しいって言うけれど、その感情というのは君にしか見せてないわけで、他の人には優しいとしか思わせない。君には、色んな自分を知ってもらいたいと考えてるんじゃないかな?」


「ははっ・・・・・・。そんな男の子みたいなもんなんですか?恋愛ってのは。俺もしたことないんで分かんないですけど」


「だったら最初から、優しいって言わないよ。きっと、君の中の素敵なものを見つけたから、君にも自分の中のものを見てほしいんだと思う。だって、この学校で天音ちゃんを見ていると、なんだか偽っているように見えるから」


恋をしたことがないって言うのに、俺には無い独特な感性と直感で正解に近いものを導いてきた今沢に素直に感心した。


偽っている事を見抜いてくるなんて、なんで分かるのかは俺には理解できない。


「・・・・・・そうですか。まあ、そう言うならアイツと向き合ってみるのもアリ・・・・・・なのか?」


「うん。いいと思う。・・・・・・でも、そうしたらもうここで会えることも無くなっちゃうね」


「・・・・・・そうなんですか?」


「うん。ああいう子に限って、独占欲強いから」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・こっわ。なんでそこまで当ててくるの?え?何?エスパー?独占欲強いなんてそこまでピンポイントで当ててくる?


「・・・・・・先輩って凄いですね」


「でしょ?いつでも相談に乗ってあげるよ。・・・・・・・・・でも、そうやって相談していくうちに、心変わりしちゃうのはいけないからね?」


「因みに俺は余裕のある女性が好きですね」


「私は君と恒久的な関係が合ってると思うの」


そう言って踵を返すと、去り際に一言だけぽつりと呟く。


「何かあったら、私に言ってね?」


ニコッと笑った今沢に俺は、また今度と言って軽く会釈する。


天音は今沢を消そうとしているのかと思っていたが、そんなことはなかった。俺の杞憂に過ぎないのだろう。


「・・・・・・・・・天音としっかり向き合うかぁ」

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