第4話 依存
6時間目が終われば、俺は直ぐに家に帰宅する。部活なんてやる訳ないし、掃除もサボる。文句を言ってくる生徒は誰もいない。そう、あいつを除いて。
「山下くん。ちゃんと掃除しなきゃダメだよ」
振り返れば、純粋とはかけ離れた憎悪な感情をむき出しにした声で天音香織は俺に話しかけていた。
なんと俺と天音は同じクラスなのだ。話しかけることも気にすることも無いので、俺にとって彼女は影が薄い存在に見える。
「やっておいてくれない?」
「はぁ?何言ってんの?嫌われてることと掃除をサボることの何の関係があるの?あんたが悪いんでしょ、この危険人物」
「・・・・・・」
否応なしにただの迫害が始まった。彼女の正義ヅラには反吐が出そうになるが、俺は反論出来ないし、周りの人間は何も言わない。
「わかった」
「・・・そう。じゃあ───」
「お前がやっておいて」
「は、はぁ?!」
そう言葉を遮るように言って俺は教室から出る。どうせあいつはやることはない。囲いの人間にやらせるつもりだ。スクールカーストが顕著に見えた瞬間だった。
最寄りの駅で電車に乗り込むと、いつも空いている端っこの席に座る。誰もが知ってる特等席だ。
くらくらと揺れる電車は、少しだけ遠くに行かせてくれる。暗い世界のようなトンネルから連れ出してくれるのなら、どんな切符でも是非買いたい。
「ふぅ、間に合った〜」
そんな俺の思いを無下にするかのように、天音はドアが閉まるギリギリで乗り込んできた。
「・・・・・・またか」
いつもの光景だ。俺と同じ電車に乗ってくる。まあ、地元は同じだしそれなら別におかしいことは無い。
「ふぅ。・・・あ、ここ空いてる?」
一息ついて俺に話しかけてくる。見ればわかるのにあえて聞いてくるのは何故だろうか。
「空いてないです」
「じゃあ座るね〜」
「結局そうゆうことになるのかよ」
「いつもいつも、周りの子を撒くのは大変なんだよ?少しは待っててよ」
俺の横に座ると、右肩に頭を乗せてくる。本当に面倒な奴だ。
「一つだけ聞かせて欲しい」
「ひとつと言わずに、なんでも聞いてよ」
「俺の事、好きなんだろ?」
「うん。愛してるよ」
走ってきて汗をかいたのだろうか、フルーティー系の香水の匂いが俺を安寧に導いてくれる。
「だったらなんで、そんなことするんだ?俺の人生壊そうとするなんて」
「え〜?前も言ったじゃん。君を独り占めしたいんだって」
「他意があるんじゃないかと思っていたんだが・・・・・・」
「ほんとに無いよ。ただ君が好きなだけなんだよ」
「なら何故、そこまでする」
そう聞くと、その空間には電車が走る音だけが取り残される。この車両には俺たちしか乗っていない。
彼女は体勢を変えて、俺の耳元に顔を寄せてくる。呼吸が少し当たってムズムズするが、表情を変えずにその場を凌ぐ。そして甘くて、どこかドロドロとした思いを、優しく囁いてきた。
「君を依存させたいの。夏実くんは事件を起こしたことを否定しないから、それをいいことに君の悪〜い噂を沢山ばらまく。友達がいない君はどこか他の場所に心の拠り所を探そうとするの。そして今日みたいに濃く。少ない時間を君に与えて続ける。たまに接触しないで君に不安を与えたりすることで、君は私の虜になる。そう言うやり口で君を堕とすつもりだよ?」
「・・・・・・」
何も言えずに黙り込む俺に、彼女は続ける。
「それを2年も続けてるけど、君は堕ちる気配が全くない」
少し落ち込んでいじけた声で話す。はぁ、とため息を一つだけ吐き出して、俺は仕方なく彼女と顔を合わせる。
「なあ、勘違いしてることがあるぞ?」
「・・・・・・勘違い?」
「ああ、そうだ」
俺はニヒルな笑みを浮かべて、冷たい声で言い放つ。
「俺を依存させたいんじゃなくて、お前が俺に依存しているっていつ気付くつもりだ?」
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