ゼウス、目覚める

「ぅ........」


意識を取り戻したのか、重い瞼を開くゼウス。

そんなゼウスの目の前に広がっていたのは..........白を基調とした見知らぬ部屋だった。


「..........そうか。我は、あの少年に肉体を貰ったのだったな」


ゼウスは、少年の魂のことを思い出しながら、ごくごく小さな声な声で呟くと


「響.....?」


ゼウスの声に、見知らぬ女性が反応した。


「ぁ.....」

「響.....響ぃ!!」


女性は、ゼウスが目覚めるのを確認すると...........涙目になりながら、彼に抱きついた。


「よかった.....よかった...........」


その瞬間、ゼウスは理解した。

この女性が、少年の母親なのだと。


「おい、どうかしたのか...........って、え?」

「あなた!!響が!!響が目を覚ましたの!!」


部屋に入ってきた、少年の父親らしき男性に向けて、少年の母親がそう言うと.........少年の父親もまた、ゼウスに抱きつくのだった。


「響.....よかった............」


号泣している二人によって、ギュッと抱きしめられているゼウスは、少年が愛されていることを再確認し


「..........ごめんね」


少年との約束を果たすかのように、ゼウスは、少年の両親にその言葉を伝えた。

一方、その少年の両親はというと


「何を言ってるの!!むしろ、謝るのは..........私達の方よ」

「今まで、気づかなくてすまなかった.......」


と、自分を責めるかのように、ゼウスに向けて謝ったのだった。

その光景を見たゼウスは、今頃、冥界にいるであろう少年に思いを馳せていた。


(...........少年よ。お前の両親は、失望してはいなかったぞ)


その後、医者や看護師が部屋に入り、ドタバタした末に、ゼウスは、少年の家族の近況を教えてもらった。

少年こと、鳴上響に濡れ衣を着せられたことによって、その家族は世間から誹謗中傷され、両親は仕事と家を失ったが、それでも響の無実を信じ続け、病院の近くに引っ越してきたのだと、両親はゼウスに向けて語った。


「..........我のせいで、そんなことになっていたのか」


少年の両親に対し、そう呟くゼウス。

しかし、それを聞いた少年の母親はニコッと笑った後、こう言った。


「響は私達の大事な息子。誰が何と言おうと、私達は響の味方よ」


それを聞いたゼウスは、親という存在が、いかに強いのかを納得したの同時に、この二人のためにも、生きようと決意したのだった。


「でも.....何で、響の髪の色が変わったのかしら?」


自身の息子..........もとい、ゼウスの髪の毛を見つめながら、不思議そうに呟く少年の母親。


(恐らく、我がこの肉体に憑依した影響なのだろうな)


そう思いながら、少年の母親が向いたリンゴを食べるゼウス。

そのリンゴの味は、ゼウスにとっては格別なものだったのか


「...........美味い」


と、天井を見上げながら呟いた。


「元気になるには、まずは食べれる分だけ食事を摂る。そうすれば、徐々に元気になると思うぞ」

「そうそう。無理せず、ゆっくりしてね」

「無理せず.....か」


兄弟や妻に見捨てられ、神の座から追放されてしまったゼウスにとって、その言葉は...........心を癒すには、十分すぎるほどであった。


「あ、そうだ!!何か飲みたい物はある?」

「...........ネクタル」

「「ネクタル?」」


聞き慣れない言葉に対し、思わず、そう聞き返す少年の両親。


(あぁ、そういえば.....ネクタルは神々の飲み物であったな)


ネクタルが神々の飲み物であったことを思い出したゼウスは、咄嗟にこう言った。


「.....ではなく、果実の汁が飲みたい」

「分かったわ。それじゃあ、ジュースを買ってるわね」


そう言うと、少年の両親は病室から出ていくのだった。

そして、二人が居なくなったのを確認したゼウスは、ベッドから降り...........神の力を使えるかを試した。


「...........!?」


その瞬間.........僅かながら、ゼウスの手のひらに電流のようなものが纏った。

それを見たゼウスは確信した。

神の力は...............何かしらの形で、残っているのだと。


「........なるほど。今の我には、この程度の力しか残っていないのか」


だが、それはゼウスにとって、好機とも言えた。

何故なら、神の力が僅かながらに残っていることが判明した以上、ゼウスがやるべきことはただ一つ。

この世界で生きるために、この肉体と共に、神の力を鍛えなければならないと..........


「その前に.....まずは、食事を摂らないとな」


そう呟いた後、皿に残っていたリンゴを掴むと、それを口の中に入れるゼウス。

それと同時に、少年の両親が病室に戻ってきたのだが


「「響!?」」


何故か、ベッドにいるはずの息子が、床に立っていることにびっくりしたのか、二人は、思わず驚いた顔をしていた。


「あぁ、すまない。腹が減ったので、つい」

「お、おぉ。食欲が戻ってきたのなら、何よりだ」

「だけど、手づかみは駄目だからよ」

「...........分かった」


少年の母親に注意され、シュンとなるゼウス。

その後、ゼウスはベッドに戻り、少年の両親から貰ったジュースを飲んでいたのだが、そのジュースが美味しかったからか、目を見開きながら、ポツリとこう呟いた。


「..........こんなに美味い果実の汁は初めて飲んだ」


その言葉を聞いた二人は、ゼウスに対して微笑んだ後


「フフッ。なら良かった」

「病み上がりのジュースは美味いからなぁ」


と言った。

しかし.....ゼウス本人は、そんな両親を見つめながら、こう思っていた。


(こんなにも良い両親に恵まれ、深く、優しい愛を受けていたというのに...........何故、あの少年は死ななければならなかったのかが、理解できん)


何故、罪のない少年が死ななければならなかったのか。

ゼウスは、人間界の不条理、理不尽さに腹が立ったのか..........少年の両親にバレないように、唇を噛んでいた。


「...........どうかしたの?」

「.......いや、何でもない」


(少年の分まで.....生きなければならないな)


こうして、冥界にいる少年に想いを馳せながら、覚悟を決めたゼウスなのだった。


「ところで..........何だ、そのリンゴの山は」

「あ!?本当だわ!!」

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