第27話 決意

カミュスヤーナはイヴォンネの前に、2つの装身具を置いた。大きな宝石がついた幅の広い腕輪だった。

「これが夢の中に入るための魔道具?」

「そうだ。この2つは対になっていて、装着した相手の夢の中に入ることができる。」


「夢の中に入ったら、どうすればいいの?」

「相手を探しだして、これは夢だと認識させればいい。」

彼の答えに、イヴォンネは軽く息を吐いた。

「相手が既にこれは夢であると認識していたら、どうなの?ラーファエルは、術をかけた張本人でしょ?きっと、夢であると分かっていると思うのだけれど。」


カミュスヤーナはイヴォンネの質問を想定していたのだろう。彼女に向かって軽く頷いた。

「私は実際行っていないが、目覚めるであろう行動は一つとれる。」

「それは何?」


「夢の中で、ラーファエルを殺すことだ。」

「殺す?」

「テラスティーネが夢に入って私を目覚めさせようとした時、私は暴走しそうになったため、その前に自分達以外のもの、つまり、夢を壊した。これでも私は目覚めたが、彼女は夢から弾き飛ばされて、なかなか目覚めず大変なことになった。」


「・・・。」

「そして、次は私が彼女の目を覚まさせるために、夢の中に入ったのだが、私は夢の中で彼女に会えなかった。別の要因があって、彼女は夢の中にいなかったから。だが、私は彼女に会えたら、自分の手で夢の中の彼女を殺すつもりだった。」


「なんで!」

「この時の彼女は、自分から進んで私の夢の中に入っている。彼女は自分のいるところが夢の中だと自覚している。つまり、今のラーファエルの状態に似ているが、であれば、夢の中の彼女が死んでしまえば、夢が消え、彼女の目が覚めると思った。」


「・・もし、それでも覚めなかったら、どうするつもりだったの?」

「彼女が目覚めないなら、私は生きている意味がない。現でも彼女を殺して、自害する。いや、殺す必要はないか。目覚めなければ、自然と魔力も枯渇して死ぬだろうから。それを見届けてから死ぬかな。」

彼は迷いなく告げた。


「もしかしたら、夢の中でラーファエルを説得すれば、夢から覚めてくれるのかもしれないが、それは分からぬ。夢の中で試行錯誤するのだな。私ができるのは、この魔道具をそなたに渡すこと。それだけだ。」

イヴォンネはごくっとつばを飲み込んだ。カミュスヤーナは彼女に赤い瞳を向けて、淡々と告げた。


「そなたは、ラーファエルに好意を持っているのであろう?なら、そなたの力を用いて、ラーファエルを救ってみせよ。ハンニカイネンのことは心配しなくていい。もしもの時は私が面倒を見てやろう。」


イヴォンネは震える手で、魔道具をつかみ、自分の腕に差し入れた。


カミュスヤーナから、魔道具の使い方を習った後、イヴォンネはラーファエルの腕に魔道具を付け、寝台に寝ている彼の横にぺたんと腰を下ろした。


この部屋は人払いをしてもらっている。宰相には、ラーファエルの目を覚まさせるために、イヴォンネがこれから夢の中に入ること。1週間経っても起きる様子がなければ、カミュスヤーナに全権を預けること。を伝えた。


カミュスヤーナは、こちらとの通信手段をおいて、しばらくは対応すると言って、帰っていった。他、細かい件に関してはヴァルッテリに一任した。きっと、何かあればカミュスヤーナとやり取りし、対応をしてくれるだろう。


多分これほど近くで彼の寝顔を見るのは初めてかもしれない。

寝息は規則正しくて、苦しんでいる様子はみじんも見受けられなかった。

彼の頬に手を当てると、思ったよりもなめらかで驚いた。


「ラーファエル。」

もちろん、呼びかけても、寝ている彼は答えない。

「私は貴方に無理ばかり言ってきた。貴方はいつも、私を助けてくれていたのに。」


イヴォンネが彼に助けを求めたあの日から。

彼はいつも側にいて、私を慰め、一緒にお父様を討伐しようと言ってくれ、それを実際になし、魔王の責務を私の代わりに受け、私の魔力の糧となる贄を集めてくれた。

私が与えられたのは魔力くらい。


彼との約束により、私は彼に魔力を奪ってもらうために、定期的に口づけをする。それはいつの間にか、彼と関わり合える唯一の時間になってしまった。その口づけに彼の感情が少しも載っていなくても。私はそれで構わないよう演技をし続けなくてはならなかった。


でも、今、彼を助けられるのは私しかいないのだ。

イヴォンネは、彼の横に寝ころぶと、寝ている彼の腕を取り、目を閉じた。

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