第17話 夢からの帰還
「・・・!」
寝台に寝ていたカミュスヤーナが、声にならない叫びをあげて身を起こした。
アメリアより今後のことを聞いていたヴァルッテリは、すぐに寝台の横について声をかける。
「カミュスヤーナ様。私はエンダーン様に造られた自動人形のヴァルッテリと申します。」
カミュスヤーナは荒い息を調えながら、その赤い瞳をヴァルッテリに向けた。
「ここは・・どこだ?」
「ハンニカイネンの魔王の館です。」
「なぜ、私はハンニカイネンに?」
カミュスヤーナは、夢から覚めたものの、そうなった経緯の説明は全くなされていないらしい。
先日魔力の補給はイヴォンネが行っていったから、まだここ数日はこちらに来ないが、彼が夢から覚めたことをラーファエルは気づいたのではないだろうか?
ヴァルッテリは、ひとまず簡単に今までの経緯をカミュスヤーナに説明する。
「私を目覚めさせるために、テラスティーネは私の夢の中に現れたのか。」
カミュスヤーナは自分の両掌を見つめた後、自分の身体をかき抱いた。彼の表情は硬い。
「目覚めたことが魔王様には知られている可能性があります。」
ヴァルッテリは、カミュスヤーナに向かって、言葉を発した。
「ラーファエルのことは問題ない。」
カミュスヤーナはヴァルッテリの言葉にそう答えた。
「?」
「私が、彼がかけた術を無理やり破ったからだ。私の力だけではないが。無理やり破った術は、術をかけた当人に返る。」
「!ということは。」
「今は、ラーファエルが幸せな夢を見ているはずだ。」
その時、部屋の扉をノックする音が響く。ヴァルッテリは、カミュスヤーナに、念のため寝台の上に横たわっているようお願いをし、扉の前まで足を進める。
彼が、扉を開けると、イヴォンネ付きの侍女と、その後ろにイヴォンネ本人がいた。
「どうかされましたか?本日は、お約束はされていなかったと思いますが。」
「ヴァルッテリ。お兄様が先ほど急に倒れられて、目が覚めないの。」
侍女が答える前に、背後にいたイヴォンネが口を開く。
カミュスヤーナが言ったように、早々に術はラーファエルに返ってしまったようだ。
「それは・・。」
「私なら、ラーファエルを目覚めさせる方法を伝授することができる。」
ヴァルッテリの後ろから、声がする。
「貴方は・・。」
侍女とイヴォンネが、視線をヴァルッテリの後ろに向けた後、その目を見開いた。
ヴァルッテリは後ろを振り返り、軽く頭を振った。
ヴァルッテリの後ろに立ったのは、寝ているように言っておいたはずのカミュスヤーナだった。
「もしかして、貴方がお兄様を眠らせたの?」
「いや。私はどちらかと言うと被害者なのだが。」
カミュスヤーナは、イヴォンネの問いかけに、機嫌を悪くしたらしく、こちらを嘲るように口の端をあげた。
「そもそも私に術をかけて、魔力の贄にしようとなどするからだ。」
「お兄様は、私のためを思って・・。」
「だからと言って魔王に手をかけるとは、片腹痛いわ。」
カミュスヤーナの言葉に、イヴォンネは唇を噛みしめる。
「そなたは、なぜそれほどまでに魔力を必要としているのだ?土地を治めるのにも、それほど魔力は必要ないだろう?」
「私は・・お兄様に頼まれて、魔力を使っているだけ。」
「自分の魔力を何のために使っているのか、よくわからないとは。それでも魔王の片腕か?ただの操り人形か?」
「っ・・!」
イヴォンネは悔しそうに顔を歪ませた。
ヴァルッテリも、侍女も、二人のやり取りに口を挟めなかった。二人から発せられる魔力による威圧が、彼らが言葉を発するのを抑えている。
「そなたは、ラーファエルよりも力があるのに、なぜ彼に従う。そなたは、大切な者を守るために、その力を使わないのか?」
「大切な・・者。」
「そう。私に相談してきたのは、彼のことだろう?」
違うのか?と、カミュスヤーナは首を傾げた。
イヴォンネは、顔を赤くさせ、口をはくはくとさせる。
「あの・・お話が長くなりそうなので、お茶をお入れします。」
ヴァルッテリは何とか口を挟む。
「それもそうだな。」
カミュスヤーナは、自分が捕らわれている身であるにもかかわらず、ヴァルッテリの提案に了承した。どうも、話の主導権は、カミュスヤーナにあるようだ。
ヴァルッテリがイヴォンネを部屋の中に案内していると、カミュスヤーナが彼に向かって小声で呟く。
「お茶を入れてからでかまわないが、アメリアと連絡を取ってくれないか?テラスティーネの様子が知りたい。」
「・・・こちらからアメリア様と連絡を取る手段がないのです。ですが、そう経たないうちに、こちらへの接触はあると思われますので、その時に確認してみます。」
「わかった。」
カミュスヤーナが円卓の方に向かうのを確認した後、ヴァルッテリは侍女と共にお茶の用意をするため、調理場に向かった。
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