第18話 助力を乞う
円卓に腰を掛けたのは、カミュスヤーナとイヴォンネの2人だけだった。イヴォンネ付きの侍女と、ヴァルッテリはお茶の準備を済ませた後、2人の後ろに立った。最初、部屋を出て行こうとしたので、それは困ると、カミュスヤーナが留めたのだ。話を補足する者、そして、この場を見ている人物がいるのがとても重要だ。
「私、貴方には申し訳ないことをしたと思っているわ。そして、貴方の奥様にも。」
イヴォンネはまず非礼をわびた。謝ってくるとは思っていなかったのか、カミュスヤーナは彼女の顔をしげしげと眺めた。イヴォンネはカミュスヤーナに見つめられて、少し頬を赤く染めた。
「確かに私はお兄様が言う通り、自分の魔力を使ったわ。それがこの地を治めるのに必要かどうか判別することなく。魔王は私ではなくお兄様だからと。お兄様が言うことなら間違いはないだろうと思って。」
「そもそも、魔力量が少ない者が、魔王の座に就くことが愚かなのだ。ラーファエルではなく、そなたが魔王に成ればよかった。なぜ魔王に成らなかった?」
カミュスヤーナの問いかけに、イヴォンネは少し考え込むようにしてから、息を吐いた。
「長くなるけど説明するわ。ハンニカイネンの魔王は私の父だった。私の母は、私を産んですぐに亡くなったの。父は母の死をとても悲しみ、私が母の命を奪ったと思ったみたい。しばらくすると、虐げられるようになったの。そして、初花も奪われた。」
最悪だ。カミュスヤーナは、心の中で彼女の父親に悪態をつきながら、言葉は発さず、話の続きを促した。
「その時、ラーファエルは私の教育係だった。ラーファエルに私は死にたいと無理を言った。そしたら、彼は共に父を討伐しようと言ってくれた。彼は魔力が乏しいから、定期的に魔力を分けてくれればいいと言って。その言葉の通り、私は彼と共に父を討伐した。」
「それは、ラーファエルに一生尽くすのと同義では?」
「父に母の代わりを求められるよりはいいと、その時は思ったから。」
彼女は円卓に用意されたお茶を口に含んだ。
「父を討伐した当初、私が魔王の座を継承するはずだった。でも、気が付いてみたら、私は彼に魔王の座を譲り渡し、かつ彼のことをお兄様と呼ぶようになっていた。」
「術を使われたのか・・。」
「そう、ラーファエルが得意とする夢を介して相手を操る術。幸せな夢を見せる代わりに、その身体を自分の意のままに操ったり、認識を変えるなど暗示をかけたりすることができる。記憶を一部忘れさせることもできると思う。私も一時的に父に虐げられていたことは忘れていたから。」
「でも、その術はいつしか切れたのだな。」
「私の魔力量が彼の魔力量を大きく上回っていたことと、何度も魔力を彼に渡していたことから、魔力の色が近しくなってしまった。だから、術の効果が弱まっていったの。でも・・私は代わりに魔王をするとは言い出せなかったし、術が切れているとも言えなかった。」
「それはなぜ?」
「きっと彼には彼の考えがあって、私に術をかけて魔王に成ったはず。私に魔力を故意に使わせていたのにもきっと理由がある。そう考えたら、言い出すことは彼を否定するようで怖かったの。」
「そなたも言葉足らずなのだな。言わないと相手には伝わらない。」
カミュスヤーナは、まるで自分のことを見ているようだ。とは、思っても言わない。
「私は今度こそ、彼に私の気持ちを正しく話す。魔王の座には私が就く。彼には私の側にいてほしい。そのためにも彼を目覚めさせないと。こんなこと言える立場ではないのは、わかっているけど、彼を助けてください。カミュスヤーナ。」
「・・私は助けない。」
カミュスヤーナの言葉に、イヴォンネは悲しげに顔を歪める。
「というか、私にはラーファエルを助けることはできない。」
続けた言葉に、イヴォンネはその紫の瞳を瞬かせた。
「私は、ラーファエルを目覚めさせる方法を、伝授することができると言ったであろう。実際に助けるのは、そなただ。」
「どういうこと?」
「私が目覚めたのは、私の夢の中に伴侶であるテラスティーネが来て、私の夢を壊すきっかけを与えたからだ。夢に入るための魔道具は提供しよう。そなたが、彼の夢の中に入って、彼の夢を壊すのだ。私では多分ラーファエルの夢に入ろうとしても弾かれる。私は彼とは何の関係もないからな。」
カミュスヤーナの言葉に、イヴォンネは覚悟を決めるかのように、その口を引き絞った。
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