第14話 夢を崩す

黒い髪、水色の瞳を持つアメリアが、テラスティーネとエンダーンに、ここ数日ハンニカイネンで得てきた情報について報告をするのを、テラスティーネは黙って聞いていた。


カミュスヤーナを捕らえたのは、エンダーンの想定通り、魔人の住む地ハンニカイネンの魔王ラーファエルだった。カミュスヤーナを捕らえた目的は、ラーファエルの右腕ともいえる魔人イヴォンネの魔力の贄とするため。


ただ、初回の魔力取り込みの時に、彼が抵抗したため、普段は眠らせて、魔力を奪う時だけ起こしている状態らしい。しかも、魔力を奪う時には、イヴォンネをテラスティーネと認識させてからでないと、抵抗を受けるらしい。


「ははっ。さすがは父上。相変わらず面白い。」

エンダーンは、テラスティーネの隣で笑っている。

「そもそも、なぜそこまで、イヴォンネに魔力を使わせているかがよく分かりません。」

テラスティーネは、エンダーンを横目で軽く睨みながら、言葉を発した。


「確かに、カミュスヤーナは、魔力を消費させるために、わざと魔力を使っているところはありましたが、そこまで、魔力を使って土地の開発をする必要もないのでは?」

「私もそう思います。母上。実際は贄が必要になるほど、魔力を消費することはそんなにありません。新しく創造する時は必要ですけどね。結界とか建築物とかその他もろもろ・・。それらを維持するのには、そんなに魔力を使いません。」


「そして、最初の質問に戻るのだけど。」

「イヴォンネにあまり魔力を持たせたくないのかもしれませんね。父上みたいに。」

「暴走するということ?」

「または必要と思わせて、望んでハンニカイネンにいるように仕向けているとか。」

「あの・・それって、直接本人に必要だと言ってあげればいいのではないでしょうか?」

アメリアが話に口を挟んだ。


「魔王ラーファエルとイヴォンネの関係がよくわからないわね。。」

「そこに、口を挟むことは必要ないのではないですか?当人たちの問題ですし。」

「カミュスヤーナはイヴォンネの贄として捕らえられたのでしょう?イヴォンネを味方につければ、取り戻すことが容易かと思ったの。」

アメリアが、テラスティーネの言葉に口を開いた。

「ヴァルッテリが言うには、イヴォンネは魔王ラーファエルに懸想しているのではないかと。」


ヴァルッテリとは、エンダーンがハンニカイネンに売りつけた自動人形の名だという。

「懸想?」

「この間は、恋愛相談をカミュスヤーナ様にされていたと。」

「カミュスヤーナに・・恋愛相談・・。」

テラスティーネとエンダーンは2人で絶句した。普通捕らえた人にそんな相談などするだろうか?


「どうも、カミュスヤーナ様とテラスティーネ様の仲をうらやましく思われたようで。」

アメリアが困ったように眉を寄せ、首を傾げる。

テラスティーネは、アメリアの様子を見ながら頭を抱える。だったら、連れて行かないでほしいと、彼女は心の中で思う。


「ちなみに、カミュスヤーナ様の元に、魔王ラーファエルが訪れることはほぼないそうです。魔力を貰う時だけ、イヴォンネがヴァルッテリを伴って向かうとか。また、ヴァルッテリはカミュスヤーナ付けになっているみたいです。」

「そうか。」

エンダーンは隣で考え込んだ。


「この状態が続くと、魔力過多で父上が暴走する可能性がある。向こうが手を出してきたのが悪いが、さすがに魔王本人を討伐したり、館を壊されたりすると、後処理や賠償問題が面倒だ。大部分が寝ている状態なら、夢の中から切り崩そう。」

エンダーンはテラスティーネの方を振り返る。


「母上にも協力していただきますよ。」

「私ができることならいくらでも。」

エンダーンは、そう言うと思いました。と言って、口の端を上げた。


「母上には、父上の夢の中に入っていただきます。そして、父上にこれは夢だから起きるようにと説得してください。父上が夢だと認識すれば、目が覚めるはずです。ただ・・。」

エンダーンの表情が曇る。


「魔王ラーファエルの術にかかっている状態なので、母上を異物として排除しようとするでしょう。夢の中で万が一殺されても死ぬことはないと思いますが、危険ではあると思います。」


「問題ありません。」

「では、私は夢に入るための魔道具を作成しましょう。さすがに、母上の意識を失わせることはしたくないし、確実性がないので。対にして、片方をアメリアに持たせ、ヴァルッテリ経由で、父上に装着してもらうことにします。アメリア。これらの素材を準備してくれ。」


アメリアに、エンダーンが紙切れを渡す。話している間に、魔道具を作成するための素材とその量を記していたようだ。アメリアは紙を手にして、その場から姿を消した。

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