第7話 幸せな夢

目を開けると、青い空が見えた。

「カミュスヤーナ?」

頭上から声が降ってくる。視線を向けると、彼女は柔らかい笑みを見せた。

「どうしました?魘されていましたよ。」

「嫌な夢を見ていたような・・?」


彼女の掌が、私の髪を撫でてゆく。どうやら私は彼女の膝に頭を載せているらしい。私は彼女の横に身を起こした。

「すまない。重かっただろう?」

「いえ。それほど長い時間ではありませんでしたよ。少しでも休めたのであれば、何よりです。」

彼女はそう答えて、私に飲み物を勧めた。


目の前には空と同じような青い海が広がっていた。

以前私が流れ着いた浜辺だ。一度来て気に入り、浜辺に四阿を作ってしまった。

もちろん、彼女の父親の家と同じように、認識阻害の結界を張り、他者には見えないようにしている。そもそも、ここはエステンダッシュ領ではないので、領主の許可も得ずに建物を建てるのは、本来してはいけないことだけれども。


「いつもながらいい風だな。」

「そうですね。エステンダッシュ領にも海があればいいのに。」

「ユグレイティの地にも海はあるが、浜辺はあるのかな?探してみるか?もし、なければいっそのこと作ってみるのはどうだろう。」

「それは楽しそうですね。」


どうせ私の魔力は頻繁に消費しないといけないのだから、いい機会のような気がした。私は魔力が満たされた状態だと、合わせて破壊衝動が高まるので、程よい量に魔力を減らしておかないとならない。

「テラ。そういえば先ほどなぜ魔力を欲しがったのだ?」

「何のことですか?」

長椅子の隣に座っていたテラスティーネは、私の問いかけに不思議そうに首を傾げた。


「先ほど魔力が欲しいと、私に強請ったではないか。」

「私はそのようなことお願いはしておりませんが。」

そのような夢を見たのではありませんか?と、テラスティーネは言った。

「夢を見て魘されていましたし。疲れがたまっているのでしょうか?」

「そういえば、平手打ちをされたような気もする。」

テラスティーネは、ぎょっとしたように私を見やる。


「それは、夢の中で私がカミュスを打ったとおっしゃいますか?」

「いや、平手打ちは他の者に行われたように思う。君としたのは口づけかな。」

今度はテラスティーネの頬が赤くなる。

「寝ている間に口づけなどしてはいませんよ。しかも、夢の中では、他の者がその場にいたのですよね?さすがに恥ずかしいです。」


「別にされても君になら構わないが。では、もう一度私に口づけをいただけませんか?」

「ここで、ですか?」

テラスティーネは、きょろきょろと辺りに視線をさまよわせた。私は彼女の後頭部に手を添える。


「大丈夫。誰も来ない。」

「お父様がいらっしゃるかもしれないではないですか。」

「それなら、魔力感知で私が分かる。」

私は彼女の身体を引き寄せる。彼女が恥ずかしそうに瞼を閉じたのを見ると、その顔に唇を寄せた。


私は、彼女さえ側にいれば、他には何もいらない。

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