第6話 捕らわれ人
青紫の髪、銀の瞳の青年は、目の前に立っている男をしげしげと眺めた。
プラチナブロンドの髪に、赤い瞳。ただその瞳には光がない。
「ようこそ。我が館へ。」
青年の言葉にも、男は何も反応を示さなかった。無表情で、青年を見つめている。表情がないので、その顔はとても彫刻めいていた。
「あのような者に情けをかけるから、このような目にあうのだ。」
「まぁ。お兄様がそう仕向けたのでしょう?」
部屋の入口にたたずんでいる少女が口を開く。
「イヴォンネ。そなたのために連れてきたというに、その言いようはあんまりではないか。」
「でも、美味しそうですね。味見してもよろしいですか?」
イヴォンネは、男の前に歩み寄って、彼の頬に手を当てる。
「別にかまわないが・・。」
男はその場に片膝をつく。少女の顔が、男の顔に近づく。
「イヴォンネ!」
イヴォンネが彼の唇に自分のを合わせようとしたのを、青年が引き留める。イヴォンネの顔の前で、ガチッと音が鳴った。
「!」
男が少女の唇を噛もうと、歯を鳴らした音だった。
「貴様っ!」
男の頬を、青年が平手で引っぱたく。頬を赤くした男が、赤い瞳で青年を睨みつけた。
「驚いた。お兄様の術にかかっていて、自分の判断で動けるなんて。」
さすが、魔王ですね。と、イヴォンネは艶やかに笑んだ。
「でもこれでは、素直に魔力をいただけそうもありませんね。」
「・・もっと、術を強化すればいい。魔力を得るとき以外は眠らせておく。」
青年は、男の頭の上に手を置いた。男は頭を振って、それを振り払おうとするが、しばらくすると動きを止める。
「イヴォンネ。カミュスヤーナの伴侶を装え。そなたを伴侶と思うよう暗示をかけてある。」
「・・面倒ですね。」
「念には念を入れてだ。痛いのは嫌であろう?」
イヴォンネは、青年の言葉に軽く息を吐いた。青年がカミュスヤーナの頭から手を離したのを見ると、カミュスヤーナの元に再度歩み寄った。
「カミュスヤーナ。」
イヴォンネの呼び掛けに、カミュスヤーナは顔を上げる。イヴォンネを認めると、その表情を柔らかく崩した。
「魔力を少しくださいませ。」
イヴォンネの言葉に、カミュスヤーナは困惑したように視線をさまよわせた。イヴォンネは頬に手を当てて、首を傾げる。
「・・・カミュスヤーナの伴侶は魔人ではないのか?」
青年がカミュスヤーナの様子を見て、小さくつぶやいた。
魔力を奪うことができるのは、魔人だけ。魔人でないのなら、魔力をもらうことはできない、ということになる。乞われたことのないことを言われ、彼は困惑の色を見せているのだろう。
「イヴォンネ。ただ、口づけしてほしいと言え。」
「わかりました。・・カミュスヤーナ。私に口づけしてください。」
カミュスヤーナが、言葉を受けて、少女に唇を合わせる。イヴォンネは合わさった唇から、魔力を取り込んだ。そう時間をかけないうちに、少女は唇を外す。
「どうだ?イヴォンネ。」
「・・魔力は取り込めましたけど。量が多かったみたいです。くらくらします。」
イヴォンネが頬を赤くして答えた。カミュスヤーナは、キョトンとしたように2人を見つめている。
「他の贄と同じように取り込んだら、それは多くなるに決まっておろう?」
この者は魔王なのだから。と青年が言葉を続ける。
「確かに・・。迂闊でした。」
青年は軽く頭を振って、カミュスヤーナの眉間を人差し指で突いた。カミュスヤーナは瞼を閉じ、その場にどさりと倒れこむ。
「なぜ、眠らせたのですか?」
「伴侶と思っている者が、他の者と口づけしていたら、激昂するだろう?多く取り込んだ分は、私がもらってやる。」
青年の言葉に、少女はフフッと笑う。
「ありがとうございます。ラーファエル。」
イヴォンネはラーファエルに向かって、自分の顔を近づけた。
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