第3話 反論
「父上!そんな、得体の知れない者!さっさと始末してしまえばいいではありませぬか!」
金色の髪、金色の瞳の青年が、机を挟んだ向かい側で声を荒げた。
色は違うが、その容姿は魔王カミュスヤーナに酷似している。カミュスヤーナより若干見た目は若い。彼の名はエンダーンという。
「こちらに被害があったわけでもなく、何か罪を犯したわけでもない者を、理由なく始末することはできない。」
「甘いです。聞けば、すでに魔力は奪われているとのこと。変に匿(かくま)えば、他の魔王との面倒事を引き起こすかもしれません。助ける必要などありません。」
「全ては記憶を除けばわかること。」
「私は父上を心配しているのです。いろいろ抱え込むのは遠慮していただきたい。父上は良くない輩を引き付けるところがあるので。」
「私が好きで呼んでいるわけではない。」
元々はそなたも、その一人だったではないか。とカミュスヤーナは、言葉を続ける。
「だからこそですね。しかも、何をされても最終的には許されてしまう。少しは母上のお気持ちにも思いを馳せてください。父上は、魔人には珍しく魂が美しいのですから。」
エンダーンの言葉に、カミュスヤーナは、ぐっと口を引き結んだ。
エンダーンは、元魔王だ。カミュスヤーナの色と魂の美しさに魅かれ、手に入れようとしたところ返り討ちにあい、魂と魔力の一部を奪われた。そのため、一旦赤子になり、短期間で成長して今に至る。
「大丈夫だ。彼女を危険な目には合わせない。」
「母上は自分の危険より、貴方が危ない目に合うことを嫌がられると思いますが。」
今までの彼女の行動で、既にお分かりかと思っていました。と、エンダーンは薄く笑みを浮かべた。
カミュスヤーナは、その様子を黙って見つめる。
カミュスヤーナとエンダーンは、親子ということになっているが、実際は双子の兄弟である。
エンダーンは、赤子になる前の記憶をつい最近取り戻した。
カミュスヤーナは、エンダーンの双子の弟だった。エンダーンは、記憶を取り戻したにもかかわらず、魔王の座を追われたことなど気にもせず、カミュスヤーナと伴侶テラスティーネを、父、母と呼び続け、かつ、自分のしたことは棚に上げ、心配をしてくるようになった。
なんでも、もう、カミュスヤーナに強さでは叶わないし、父母と呼ぶようにしつけたのはカミュスヤーナ達ではないかという言い分だ。記憶が戻っても、アメリアの養育が効いたためか、カミュスヤーナやテラスティーネにも、仇名すつもりはないと明言したため、記憶は保持したままになっている。
エンダーンは、カミュスヤーナのことも、テラスティーネのことも、それなりに分かっている。故に、エンダーンからすると、カミュスヤーナは、魔王らしくなく、力はあるものの、自分より他者を優先するところもあり、見ていて危ういところがある。それが魂の美しさを現しているのかもしれないし、そして他の魔人を引き付ける所以となっているのかもしれない。
「とにかくこの件に関しては、母上にもお伝えします。」
「わかった。」
エンダーンの言葉に、カミュスヤーナは、不服そうに頷いた。
エンダーンは、そんなカミュスヤーナの様子を見て、軽く口の端を上げた。
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