第8話【勇者ノルン・ヴァーティカルはお人好し3】



◇勇者ノルン・ヴァーティカルはお人好し3◇


 「気をつけてねぇーーー!!」と、笑顔で老人を見送る。

 老人は逃げるように、銀貨を持って走り出す。

 肺が悪いと言いながらの全力疾走……ノルンも馬鹿ではないが。


「あれで一日生きられるなら、それでいいよね」


 老人の背中は活気に満ちていた。

 死ぬ気など無いと、物乞いをしてでも生きてやるという気概を感じたのだ。

 だからこうして、ノルンは恵みを与えた。


 物乞いだとは気付いていながら。


「さてと、別にいいよっ。銀貨はまだあるからね」


 「フフン」と鼻息荒く門を出る。目的地までは半日。

 馬を使えば二時間ほどで到着するであろうが……そこに金を投じるつもりはない。


「走れば直ぐ・・だし、行くよー!」


 バッ――と構え、ノルンは走り出した。

 煙に巻く、姿を消す、閃光になる……どの形容が正しいだろうか。

 一歩走り出した瞬間、もうそこには誰も居なかった。





「やれやれ、本当に馬鹿なだねぇ」


「あれで勇者なんだから、五年間あたしたちも苦労したんでしょ」


 物影から彼女の背を見ていた二人組が居た。

 一人は銀髪で長身、褐色の肌が眩しい剣士の女性だ。それにしても露出が凄い。

 もう一人は、幅広の帽子を被り、その下には緑色の髪。スリットの入ったドレスを着る魔女。それにしても露出が凄い。


「「はぁ〜〜〜」」


 二人はノルンのかつての仲間。

 勇者パーティーの剣士と魔女だ。

 この二人、ノルンが成人を迎えると知りこの【パルーク王国】へ戻ってきたのだが、見かけた瞬間は……家を追い出された時だった。

 それから詰め所へ行くのも見たし、ショッピングも見たし、公衆浴場へ入るのも見た。


「身体は大きくなっても、中身は変わらないわね……」


「むしろ悪化しているぞ」


 公衆浴場から出てきたノルンは、金に困る老人を助けた。

 自分の報酬であるはずの銀貨を簡単に渡したのだが、その老人はやはり物乞い。

 仮病で金を貰い、その足で酒場に入っていったのを二人は目撃した。


「……で、どうするフレデリカ」


「どうするもこうするも……あの子、何処かへ行ったじゃない。あの方角からするに【ハイゼンバウロの森】だろうけど」


「王城に行かねばならんのに、なんであのは外に行ったのだ」


 ノルンは知らない。

 王城へ招かれているのは、勇者パーティー全てなのだと。


「さぁてね。どうせまた安請け合いでもしたんでしょ。その日の食費さえあればいいんだから、あのはさ」


 正解である。


「そうだな……はぁ、久し振りに帰って来て、こんなにも早く城に呼ばれるとは思わなかったが。まさかその目的であるノルンが出てっちゃうとはなぁ」


「馬鹿で間抜けな子供だけど、お人好しだからね……シャーリーもまだ来てないし」


「あぁそうだったな、もう一人いたんだった」


「なら、先に行きましょうか……仕方ないし、シャーリーと合流してくれれば御の字ね」


「だな、城にはアイツもいるだろうし」


 二人は先に行く事にした。

 夜には帰るだろうと信じ、先に王城で待つのだと。事情説明もある。

 しかし二人も知らない。王城で待つその事実が、平和になった世界に勇者パーティーは必要ないのだと宣言される――瞬間を。

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