第7話【勇者ノルン・ヴァーティカルはお人好し2】



◇勇者ノルン・ヴァーティカルはお人好し2◇


 サイズの合わない新品の下着を身に着け、パッツパツのムッチムチになったノルンは、【ハイゼンバウロの森】へ向かうために購入した大きめのコートを羽織った。

 しかし、古い短めのスカートと露出の多いシャツのせいで、コートの下は何も着ていないように見えているのだが……当人は気にしていないらしい。


「さて!お尻がキツイけど行きましょうか!」


 【タッタラの湯】の入口で高らかに宣言する勇者。

 「お尻がキツイ?」「何か、え?」「入れてる??」「嘘でしょ!?」など聞こえたが、取り敢えず全無視である。


「ハ、【ハイゼンバウロの森】かぁ……二年前に一度通ったけど、アホみたいに野生動物がいるのよね」


 主には狼や熊だ。

 それ以外にも、鹿や猪、兎など豊富である。


「でも、まぁ……ふふふっ」


 ジャラリ……と、麻袋の銀貨を鳴らす。

 入浴代と衣服を購入しても、まだ余剰はある。


 ノルンは、家を叩き出されてから考えていることがあった。


(成人したんだもんね、私〜)


 本日成人、つまりは誕生日。

 十七歳は成人と同じく、酒飲が解放されるのだ。

 十歳の頃から、仲間が酒を飲んでいるのを見ているだけだったノルンにとって、夢の一つである。


 それにしても、家を追い出されたにも関わらずそこに至るとは……おかしな精神をしている。


「いひっ」


 変な笑いが出た。

 すれ違う人々がドン引きの眼差しで見ていることも気にせず、ノルンの脳内は酒……そして酒場でナンパされる自分の姿が浮かんでいた。


(モテちゃうんだろうなぁ、格好良くお酒をたしなんで、男の人にナンパなんかされちゃったりして!)


 「えへ、えへへ」と笑みを浮かべて、ノルンは城下町を歩く。

 門は直ぐそこ、門を抜けて半日もせず、【ハイゼンバウロの森】には到着だ。

 現在昼……つまりは帰ってきたら夜、お酒デビューのチャンスだ。


 しかし。


「――ん?」


 門まで到達すると、うずくまる老人を目撃した。

 トコトコと、ノルンは一目散にその老人に駆け寄っていた。

 そして声を掛ける。


「おじいちゃん、どうかした?」


 その声に、まってましたとタイミングよく。


「ごほごほ、おぉ、おじょう――ん!!」


 老人は見上げた。

 そこには、コートが風でひるがえり、短いスカートと新品の下着を露わにするノルンの姿があった。大サービスだった。


「おほっ!!」


「え?どしたのおじいちゃん、顔が赤いけど」


「え、あぁいやいや……ごほごほ!!」


 誰もが近付かない。

 見窄みすぼらしい格好は、物乞いである証拠。


「あーおじいちゃん、肺が悪いのかな……」


 咳をするのを見て。


「ええ、ええ。そうみたいでのぉ。医者を頼る金もなく、こうしてかがんでいるしかなくてのぉ」


 ノルンは少し考えて。


「だったら、これどーぞ」


 そう言って麻袋から銀貨を五枚取り、老人に渡す。

 なんの躊躇ためらいもなく、笑顔で。


「え、え?ええのかの?」


 老人も、慣れているのだろうが戸惑っていた。

 ここまで簡単に騙され、銀貨を五枚も出すとは思わなかったのだ。

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