第6話【勇者ノルン・ヴァーティカルはお人好し1】



◇勇者ノルン・ヴァーティカルはお人好し1◇


 騎士団の詰め所を出たノルンは、真っ先に向かう場所があった。

 それは何処かと言うと。


 【タッタラの湯】……そう書かれた看板は、公衆浴場を示す物だった。

 何が言いたいかと言うと、ノルンは意外と気にしていたのだ、臭いと言われたことを。


「なによなによ!こんな美少女に、面と向かって臭いとか!」


 鼻歌を歌うこともなく、怒りと恥ずかしさで身体を洗うノルン。

 あの時、そう言えば数日風呂に入っていないと気づいた。

 合点がいった。城下町の人は、皆そんな自分を見て噂をしていたのだと。

 途端に恐ろしくなり、カイトに貰った銀貨を持って【タッタラの湯】へおもむいいたのだ。


「昔は皆がやってくれたんだもん!何もしなくても、戦うだけで良かったんだもん!!」


 ガシガシと髪を洗う。

 全身泡まみれになって、数日……下手をすれば一週間の汚れを落とす。

 ズボラでぐーたらなのは昔からだが、流石に臭いと言われれば傷つく。

 一応、十七歳の女の子だもの――中身は七歳程度しかないだろうが。


「ふぃ〜〜〜、入ったら入ったで気持ちぃ〜のよねぇ」


 この大衆浴場は、大風呂しかない。

 現在はノルンの貸切状態だ……人は大勢いるのに。


(なぁんで皆入浴しないんだろ)


 仮にも勇者であり英雄。

 しかし変な噂は尾ひれを巨大化させて一人彷徨さまよう。

 その噂は国外まで広がっているが、それを知る事はない。


(いやいや、めっちゃ見られてない!?私、やっぱり同性にもモテちゃう系!?)


 したり顔で風呂場の女性たちを見渡す。

 私の事が好きすぎて近寄れないんだと……アホな考えを巡らせていた。


「ひっ」

「こっち見た」

「く、食われる」

「一生肉奴隷に……」

「怖っ!」


(あれ……なんか不穏なワードが聞こえたよーな?気の所為だよね、あはは)


 不都合は聞き流す。それが勇者ノルンである。

 過去のその選択の数々で、尾ひれは大きくなってきたというのに。




 脱衣所で着替えを手に取るノルン。

 先程購入してきた新品な物だが。


「あっれ?」


 すっぽんぽんのまま、購入してきた下着を手にする。

 何だか小さい気がする……している。


「うむぅ……入る、かなこれ」


 良い言い方をすれば、ノルンは物持ちが良い。

 悪い言い方をすれば、先程までの下着は二年前の使い古し。

 成長期で当然のように身体も大きくなっている。

 今まで履いていた物がサイズにピッタリなのは……くたびれて伸び切っていたからである。


 つまり、新しく買った下着は……二年前と同じサイズで購入したのであった。


「マジかよ~、あははははっ!あは!!あははははっ!!ひぃっ、お腹痛い!お腹痛いんだがっ!!」


 涙を流して爆笑するノルン。

 全裸のまま膝をつき、床を叩いて大笑い。

 後ろからは丸見えである。


 こうして、勇者ノルンのへんてこな噂は更に広がるのだった……

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