第5話【エピローグから始まるプロローグ5】



◇エピローグから始まるプロローグ5◇


 【パルーク王国】騎士団長カイト・バルキリーは、打算で勇者ノルンを部屋へ招き入れた。外からその姿が見えた瞬間、この依頼書を見せればいいと、押し付けてやればいいと思ったのだ。

 そして思惑通りに、勇者ノルンは食いついた。しかし……それも全て彼女に見透かされたまま……


「しってると思うけど。私、回りくどいの好きじゃないからさ〜」


 ボサボサの頭を振り乱しながら喋る。

 おそらくかゆいのだろう。


「しかしだな……こちらとしては」


「あぁ〜いいからいからそういうの。私は、明日のご飯のお金が入ればいいのよ」


 ノルンの目的は、金だ。

 天使となれば、それこそ魔族と同等の討伐価値があるはずと踏んで、【ハイゼンバウロの森】と見えた瞬間に切り替わっていたのだ。


「そうか……では頼む。勇者だもんな、お前は」


「そう!」


「ああ、世界のために頑張ったもんな」


「そう!!」


「平和のためにやってくれたもんな」


「そうそう!」


 ドンドン鼻が高々になっていくノルン。

 ノセられて気持ちよくなり始めていた。


「前もそうだったもんな」


「あったりまえじゃ〜ん」


「世界平和のために、無給で」


「その通り!」


「だから今回も金は出ない!!」


「――なぁんでよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 崩れ落ちるノルン。

 その言葉の意味を知り、泣き出す。

 しかしカイトは意に返さず。


「言ったなノルン。世界のため平和のため、前と同じように無給で働くと」


「口車でしょうがぁぁ!」


 二年前の勇者ノルンは、魔王打倒のその日まで褒美を受け取らなかった。

 その時が訪れたらまとめて頂くという理由で。

 五年間、仲間が居たから生きていられたが……もしこの少女が一人だったのなら、とうにひもじく倒れていただろう。


「だが有言実行の勇者ノルン、約束を違えた事はない」


「その台詞は私だけが言って良いものでしょーが!」


 それもそう。だが事実である。


「嘘なのか?」


「……うぐっ……や、やるよ!やるわよぉぉぉ!――その代わり!!」


 ノルンは立ち上がるとコソコソとカイトに耳打ちをする。

 万が一外で誰かに聞かれたらいけないと思ったのか……それとも声が大きいと自覚しているのか。


「む?……はぁ〜、やはりそうなるのか」


「ふっふ〜ん。それくらいはしてよね、私を使うのならさっ」


 カイトは頭を抱えたくなる思いのまま椅子から立ち上がり。

 おもむろに麻袋を取り出し、机に置く。

 ジャラリ……と、それは銀貨の入っている小袋だった。


「最初から用意してるくっせっにぃ〜、このこのぉ」


「黙れ。それよりも近寄るなら風呂くらい入れ!!いくら美少女だろうが、不潔は断る!」


「――なっ!!え、私臭い!?臭いの!?」


「いいからさっさと行けぇぇぇ!!」


 そうしてノルンは、【ハイゼンバウロの森】へ向かう事となった。

 報奨金が出ない依頼を受け、その代わりに騎士団長カイトに……自費で金を出させると言う形で。

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