第4話【エピローグから始まるプロローグ4】



◇エピローグから始まるプロローグ4◇


 何だかんだ言いながらも、騎士団長カイトはノルンを案内する。

 いくらダメ人間であろうとも、この少女は勇者であり国の英雄。

 どんなにぐーたらで不真面目な人間であろうとも、彼女は世界を救った人物なのだから。


「おらよ。ほれでいいは?ったらはっはと家にはえれよ……?」


 カイトは鼻を抓み、口呼吸でノルンに話しかける。


「うわぁ何言ってるか理解出来わかんないけど……さっすが騎士団長頼りになるー」


 テーブルに置かれたパンとシチューに、ノルンは目をハートにして笑顔を見せる。

 顔だけは美少女だしスタイルも抜群なのだが、この娘……既に四日入浴していない。だからわざとらしく鼻を抓む、気付かせるために。


「えらく棒読みだな、別にいいが。俺も仕事があるからな……さっさと食って出てけよ?」

(嫌味が通じねぇ……)


 文句を言いつつ、何やら作業をしだすカイト。

 ノルンは横目でそれを確認しながらパンを頬張る。

 しかしおもむろに立ち上がり、リスのように頬を膨らませたまま。


「ほれはいへんはうろのほりろひずひょね?」


「うわっ、食いながら喋るな!!飛ぶだろがっ!――あと書類を見るな!」


 全身でおおうように、カイトは書類を隠す。

 その書類は、王国が手配する依頼書だった。


 ノルンはゴックン!と喉を鳴らしてパンを胃に落としてやり、シチューで流し込み。


「それ、【ハイゼンバウロの森】の地図よね?」


「……そうだが。そこまで見えたのか、今の一瞬で」


 カイトは短髪の金色の髪をガシガシと掻き、その野生動物のような動体視力に驚く。しかしノルンは、その態度をとがめるように。


「なぁにが見えたのか、よ。これ見よがしに私に見せつけてたじゃない……なぁに、それヤバメの案件?」


「……お前には関係無い」


 カイトは伏し目がちに書類をまとめる。

 ノルンはその書類を……バッ――と分捕ぶんどる。

 しかしカイトは、もう何も言わなかった。


「へぇ……天使・・出現、ねぇ。珍しい」


「……【ハイゼンバウロの森】は、この【パルーク王国】の領土だ……しかし、あの天使が現れてからは危険地帯と化している。既に行方不明者も出ているからな」


 天使。それは、魔族に敗れて減少した少数の害意だ。

 名だけ聞けば天使ではあるが、その容姿も所業もおおよそ天使とは呼べない。

 人を騙し、犯し、害し、処す。それがこの世界の天使だ。


「なーほど。で、報奨金は?」


 ノルンは金額が記されている書類を見ているはずだが、あえてカイトに聞く理由とは。


「な……お、お前まさか!」


「私が行くよ、【ハイゼンバウロの森】。でもって、ちょちょちょいって倒してきたげる」

(そのかわりぃ……えふふふっ)


 ふふんと悪い笑みを浮かべて、ノルンは窓の外を見た。

 そこには広がる森が少しだけ見える。そこが【ハイゼンバウロの森】である。


「……すまん」


「いいっていいってぇ。だってその為に・・・・私にご飯くれたんでしょ?」


 気付かれていた。

 騎士団長カイトは、始めからこの依頼書をノルンに見せるつもりだった。

 この部屋で見られたのもわざと、食事を与えたのは打算。

 それでも……天使を倒すためには、この勇者ノルンの力が必要だったのだ……

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