第9話【平和になっても敵は蔓延る1】



◇平和になっても敵は蔓延はびこる1◇


 ドドドドドドドドドドド――イーヒッヒッヒ!!ヒヒヒヒヒヒヒヒ!!


「ん?なんだこの音……馬かぁ?いや、この声は……」


 キャンプをしている男性がいた。

 その地響きのような振動は、遠くから迫る土煙と共にやって来た。


「な、なっ!!まさか魔族……まだ残ってたのかっ!!」


 その恐怖を思い出す。

 家族が散り散りになり、仲間が殺され、地獄のような日々を送った年月を。


「く、くそぉ……魔族は二年前に勇者が倒したんじゃ……ん?」


 恐怖も感じたが、キャンプをしていた男は違和感を覚えた。

 そしてようやく見えてくる、その全貌が。


 魔物の声に聞こえたのは……誰かの高笑い。

 土煙は、超高速で走った衝撃で舞ったもの。

 そして走っているのは……ピンクの髪の少女だった。


「あれは……ゆ、勇者ノルンんんんんん!?」


 身体能力がバケモノなのはあまりにも有名。

 そして【パルーク王国】で桃色の髪といえば、紛れもなくただ一人。

 【最凶魔王ザルズァーク】を打倒した勇者、ノルン・ヴァーティカルただ一人なのだから。


 ビューーーーーン!!


「……勇者ノル――っ!おわぁぁぁっ!」


 先程まで小さかった影が、一気に大きくなり。

 そして一瞬で男の真横を通り過ぎた。

 男は衝撃で転び、キャンプの道具も旋風でボロボロになっていた。


「……こ、この!!バカ勇者ぁぁぁぁぁ!!弁償しろーーーーー!!」





 ドドドドドドドドドドド……キキィィィィーーー!!


「――ふぃーー!到着到着ぅ!久し振りにいい運動だったなぁ」


 【ハイゼンバウロの森】の入口に着き、ノルンはたいして掻いてもいない汗を拭う。運動した気になっているだけだ。

 一番運動したのは、キャンプをしていた男性だろう。ノルンは知りもしないが。


「ぁん?なにか聞こえた……ような??」


 あごに指を這わせ、眉根を寄せて首をかしげる。

 全てが遅いのだ、勇者よ。


「ま、いっか!」


 切り替えが早い勇者。

 被害が出ていることも知らず、【ハイゼンバウロの森】へ入る。


「薄暗いわね。昔はもっと明るかったのに」


 森の入口の時点で、木々が生い茂り視界の邪魔をする。

 ノルンが言うように、二年前……正確には【最凶魔王ザルズァーク】が生きている間は、魔族と戦うために木は伐採していた。

 暗いのは、その伐採の意味がなくなり、木々が成長した証だ。


「さってと、天使……天使ねぇ」


 天使とは、魔族と争っていたもう一つの御敵。

 大昔、魔族との争いで大半を減らしており、人類の敵では無いと言われていた。

 それが今になって、姿を見せ始めている。


「ま、魔王よりは楽だといいけど。まぁでも、あの人硬かっただけだしなぁ」


 最凶と言われた魔王を“硬いだけ”と言う勇者。

 その実力は如何に……

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