第2話【エピローグから始まるプロローグ2】



◇エピローグから始まるプロローグ2◇


 魔王が倒され二年。

 本来魔王を討伐した報奨金は、一生を遊んで暮らせる量だった。

 しかし、ものの二年で使い倒し、酒場を手伝った(極稀に)賃金ちんぎんでいそいそと暮らしていたノルンは……本日、成人を迎えた。


「……と言う訳で、ノルン。貴女は今日から成人よ、おめでとう」


「え、うん。そうだねありがと……で、何?お母さん、怖い顔をして」


 呑気のんきに食事を取り、母の話を右から左に受け流す。

 酒場ではあるが自宅。その二階は宿になっており、十人程度が宿泊できる。

 地下にも部屋があり、そこが住居だ。


「貴女が帰ってきて既に二年の月日が流れましたね。本当にご苦労様でした、すごかったですねー」


「そうだけど……って、え?なんでそんなに他人行儀な……めちゃ棒読みなんだけど。昔はあんなに褒めてくれたのに」


 頭の中までお花畑、そんなイメージの桃色ピンクの長い髪。

 均衡きんこうの取れたスタイルは歌劇の女優もビックリするほど。

 大きく切れ長の眼は青く輝き、ゴリラと見間違う怪力があるとは思えない細腕。

 長い脚が映える短いスカート、少し多めの露出はセクシー……なはず。


「何を驚いたマヌケな顔を……成人ということは、ここには居られないでしょう?お国のルールなのですから、何度も言いましたよお母さんは」


「え……え?」


 ノルンが知らないのは、確認していないからである。

 本来なら国の常識、当たり前のルール。守らねば罰則を受ける事実。


「え?じゃありませんよノルン、バルトもメイルも、そうして家を出たでしょうに」


 バルトは長男、メイルは長女で、ノルンは次女である。


「で、でで、で、でもお兄ちゃんもお姉ちゃんもこの家で住んでるじゃない!」


 働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない!!

 ノルンの頭はそれで一杯だった。耳から溢れそうである。いや、少し出ている。


「それはお互い結婚して、この酒場を手伝ってくれているからでしょう!何もしてない貴女が言える事じゃ……ないっ!!」


「――ぃひぃっ!!」


 母親に怒鳴られて涙目になるノルン。

 しかもついでに食事を没収された。


「さぁ!それが嫌なら仕事を探してきなさい!そして宿を借りて過ごす!」


 首根っこを掴まれ、引きられて入口まで連れて行かれる。

 母と娘とは思えないやり取りだ。


「えぇぇぇぇ!?そ、そんなぁ……私はいづれこの酒場を継――あひっ!」


 投げられ尻餅をつく。


 バターーーーン!! 

 扉を閉められ、中から籠もった声で。


「真面目に働かない娘に継がせる訳無いでしょ!!住まいと仕事が決まってから出直しなさい!!」


「そ……そんなぁ……」


 ボサボサのピンク髪が、風に揺れた。

 かつて世界を救った勇者、ノルン・ヴァーティカル……十七歳になったその日、家を追い出される。

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