第79話 オッサンたち、一旦落ち着く
ドナン・レイ・ウェースツ伯爵邸での会合を終えたオッサンたちは、ギルドマスター・シェリルとも別れて宿へと戻ってきた。
時刻はすでに十七時を回り、そろそろ日が落ちようとする頃だ。
帰路の途中で市場に寄って食材を購入し、オッサンたちは宿の部屋からクランハウスへと移動した。
「ふぅ。なんだか今日は色んなことがあったな……」
「そうだねえ。激動の一日だったねえ……」
「疲れてる暇はないで。今後のことについて話し合わんとアカンしな」
「それはそうだが、今は一旦
「それもそうやな。フィーっちたちは先にお風呂に入ってきぃ」
「みんなも色々なことがありすぎて頭が混乱してるでしょ? お風呂に入って気持ちを緩めてくれば良いよ」
「そうさせて頂きますの。ほら、行きましょう、フィーさん、アリーシャさん」
「でも先にご主人様たちと打ち合わせした方が――」
「アタシたちの潜入作戦までまだ時間はあるんだし、頭の中をすっきり整理しておかないと良いアイデアなんて浮かばないわよ?」
「それはそうかもだけど……」
「アリーシャの言う通りだ。ちゃんとみんなで作戦を練るつもりだから、遠慮せずに先に風呂に入っちまいな」
「ケンジ様がそう仰るなら……あの、ではお先にお風呂、頂きます!」
「おう! ゆっくり入ってこい!」
「はい!」
ケンジに促されたフィーは、友人に手を引かれてバスルームへと向かった。
「相変わらず気ぃ遣いぃやなフィーっちは」
「まぁ今後のこともある。早く作戦を立てたいって気が逸ってるんだろうな」
「フィーちゃんにとっては数年ぶりの故郷になるしね。まさか戦争の旗印にされるとは思わなかっただろうけど」
「それだよ。フィーは本当に納得してるのか?」
「旗印にされるってことを?」
「それだけじゃなくて国を売るっつーか、国の支配をバンガス帝国に任せるとかって話についてもだ」
「でも自分の言葉だけでは意味がないとは言ってたよね?」
「だけどフィーっちは案外納得してんちゃうかなぁ」
「僕たちに王女であると告げたときにも言っていたもんね。力の無い王族など必要ないって」
「でも普通、まだ子供の王女様がそんな考え方ができるものか? 無理してるんじゃないかって心配なんだよ俺は」
「王女様やからこそちゃうか?」
「どういう意味だよ?」
「フィーっちも王族として国についてやら統治についてやら勉強してたやろうし、私情を抑え、事実のみを見て判断するような訓練もしてたんとちゃうかってことや」
「あんな子供がか?」
「オレらからすればフィーっちたちはまだまだ子供な年頃やけど、モンスターやら戦争やらで死が身近にあるこの世界やと充分大人なんちゃうかな」
「日本の戦国時代みたいに?」
「せや。上杉謙信とか十四歳で初陣を飾ってたし、森武蔵とかも十六歳で坊主の首を跳ね飛ばしてたって話やからなぁ」
「大人だからって無理してないってことにはならんだろ?」
「そら当然やろな」
「それでも彼女は決断したんだ。僕たちにできることは見守ることだけだよ」
「結構辛いもんだな、見守るだけってのも」
若者の決断に口を挟むオッサンにはなりたくない――それはオッサンたちが若い頃、年輩者に邪魔され、批判され、非難された経験があるからだ。
だからこそ少女たちの決断にはできるだけ寄り添いたい。
オッサンたちはそれを実践してきたつもりだった。
「フィーっちの目的を達成するために何が必要か。オレらはそこを考えて、彼女らが気付いていない部分をフォローしたろうや」
「そうだな」
「僕たちがまず一番に考えなくちゃいけないのは、どうやってノースライドに潜入するかだろうね」
「ケンジの口ぶりやと案は色々とありそうやけど、そこらへんどないなん?(そのあたりはどうなんですか?)」
「特に難しいことは考えてねーよ。馬車の中でクランハウスを展開しておいて、御者役以外はクランハウスに隠れておけば良いし、他にもホーセイが【地形操作】を使って地下道を掘って国境を抜けるって手もある」
「あ、そういうやり方もあるね、確かに」
「だからノースライドへ潜入するだけならバンガス帝国の手を借りる必要なんかねーんだ。だけど奴隷のままのフィーが帰国したところで何も出来なかっただろう」
「ヴィムっちとの繋がりは、そういう意味では意味があったんかもな」
「奴隷のまま帰国したところで国民の希望にはなり得なかっただろうしね……。フィーちゃんが漠然と考えていた”国民のために”って願いを達成するために手段が明確になったのは良かったんじゃないかな」
「戦争に巻き込まれたのも意味はあったって? やるせなさすぎだろ……」
「言うて現実は現実や。ゲームやないんやからセーブ&ロードで最適の選択ができるって訳やない」
「現実は現実か……」
現実は現実。
今まで生きてきたなかで、オッサンたちは何度その言葉を使っただろうか。
諦め、慰め、そして切り替えとして自分に言い聞かせたその言葉の、なんと薄っぺらいことか。
それでもオッサンたちはその言葉を唱え、むりやり自分を納得させるしか方法が無かった。
「現実なんてなるようにしかならない。だから考えよう。僕たちにできることを」
「とは言え、や。オレらだけ先走ってもしゃーない。まずはフィーっちたちと打ち合わせが必要や」
「そうだな。フィーたちが何を願い、何をしたいかの確認だ。俺たちに課せられた仕事の確認をする必要もある」
「とにもかくにも物資も必要だよね。その調達にも時間を割かないと」
「いや、それはフィーっちの護衛に付くオレのほうでやっとくわ。共有インベントリもあるし物資の受け渡しは可能やろ?」
「それもそっか。はぁ~、離れていても簡単に物資の補給ができるってヤバイよね。チート能力をくれたアイコちゃん様々だぁ」
「遠く離れていてもパーティーチャットで連絡が取れる。物資も共有できる。敵地で身軽に動けるってのはかなりのアドバンテージになるだろうな」
「せやけど現地がどうなってるか分からんからなぁ。充分気をつけんと」
「革命の灯火って言ったっけ。そのテロ集団も居るってことだし、色々と血なまぐさいことになりそうだね」
「それでも俺らの覚悟はもう済んでる。そうだろ?」
「もちろん。覚悟はとうに済んでるよ」
仲間を守る。仲間の大切にしているものを守る。
オッサンたちはそのために人を殺す覚悟はできている。
「命に大事にが基本なのは忘れたらアカンで」
「わーってるよ。さて、それじゃ俺は晩飯に準備に取りかかる。何か食べたいものがあるか?」
「肉!」
「はいはい。そう言うだろうと思ったよ。肉の備蓄はあまり無いが、景気づけにいっちょパーッと肉パーティーでもするか!」
「賛成!」
「ははっ、ほんならフィーっちたちがお風呂から戻ってきたら、オレらも先に入らせてもらおか」
「そうだな。打ち合わせはすっきりさっぱりしてからにしよう!」
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