第71話 オッサンたち、ウェースツのギルドに向かう
「さてまずは冒険者ギルドに向かおうぜ。セカンの街のギルドマスターから手紙を預かってるしな」
「ウェースツのギルドマスターに渡してくれって話やったな。ほなそうしよか」
「全員で固まって動くの? フィーちゃんたちをギルドに連れてったら、スタッドの街の時みたいにまた男たちに絡まれるんじゃない?」
「あのときはフィー一人だったが今はアリーシャにクレアが居て、皆の装備もしっかり整ってる。見た目でも、人数でも、押し出しは効くと思うぞ?」
「人数の多さってのはそれだけで威圧感があるし、まぁ大丈夫やろとは思うわ」
「それにもし絡まれても俺らが助けりゃ良い。まだこの街のことを分かっちゃいないんだし、分かれて行動する方が危険だと思うんだがどうよ?」
「なるほど。ちゃんと考えてるなら僕に
「おう」
ホーセイの賛成を受け、オッサンたちは冒険者ギルドへ向かった。
行き交う街の住人に冒険者ギルドの場所を尋ね、街の風景を楽しみながら冒険者ギルドに向かう。
やがてスタッドやセカンの街と殆ど同じ外観を持つ冒険者ギルドに到着した。
扉を開けて中に入ると、これまた他の街と同じような内装や施設を持つギルドホールが広がっていた。
「どうやらギルドってのは画一的なデザインで統一しているらしいな」
「それが一番効率的やろうしなぁ。他とレイアウトの違うコンビニに入ったら、商品探すのに苦労したって経験あるやろ? あれみたいなもんや」
「同じレイアウトだったとしても商品棚の構成が違うだけで、目当ての商品を探す時間が倍になるもんねえ」
「統一されてる方が楽っちゃ楽か」
ケンジが屋内を見回すと入り口正面にギルド受付嬢が控えるカウンターがあり、素材買い取り口があり、冒険者が
ケンジ一行が受付カウンターに向けて進むと、酒場でくつろいでいた冒険者たちの視線が集中する。
品定め、観察、詮索――見慣れぬ冒険者を見定めようとする視線だ。
そんな同業者の失礼な視線の中、オッサンたちは顔を上げて堂々と進み、ギルドの受付嬢に声を掛けた。
「セカンの街から来たパーティー、TOLIVESだ。セカンの街のギルドマスターから封書を預かってきた。あんたらのボスに渡してくれるか?」
懐から封書を取り出して受付嬢に見せると、受付嬢はギルドマスターを示す封蝋印を確認してから封書を受け取った。
「確かにセカンの街のギルドマスター・ムトゥ様の封蝋印のようですね。では封書を持ってこちらへどうぞ」
受付から立ち上がると、受付嬢はケンジたちを二階の奥にあるギルドマスターの執務室へと先導した。
「シェリル様。セカンの街のギルドマスター・ムトゥ様より封書を携えた冒険者が参りました」
「ああ、もう来たのですか。良いですよ、入室してください」
「はい。失礼します」
執務室の中から聞こえる妙齢な女性の声を聞いて、受付嬢が執務室の扉を開けてケンジたちを中へ導いた。
「ようこそトゥライブスの皆さん。私がウェースツの冒険者ギルドの長。シェリル・イグ・フォレストです」
シェリルと名乗った女性は入室したケンジたちに頭を下げた。
その拍子に絹のように滑らかな長い髪がサラリと落ち、特徴的な耳が現れる。
(うぉ、エルフだ。しかも美しさと大きさを兼ね備えたハイグレードオッパイの持ち主じゃねーか。グレートオッパイな美形エルフとかやべえな)
(マジか……エルフはちっぱいが標準やないんか……。この世界、ちっぱい派に救いはないんかい……っ!)
(はいはい二人とも。そういう話は後にする。さすがに失礼だよ)
ホーセイに窘められたケンジとリューは、すぐさま表情を取り繕ってエルフの女性に挨拶を返した。
「俺はTOLIVESのリーダー、ケンジ」
「オレはリューやで」
「僕はホーセイ。女の子たちはそれぞれフィーちゃん、アリーシャちゃん、クレアちゃん。六人でパーティーを組んでいます」
「そうですか、貴方たちが……」
「俺らのことを知ってるのか?」
「セカンの街を襲ったモンスター
「伝書鷹! そういうので連絡を取り合っているんだ」
「んっ? ならどうしてムトゥは俺たちに封書を届けるように依頼したんだ? 伝書鷹ってので手紙を送れば済む話じゃねーのか?」
「それを今から確認します。皆様はソファーに座ってしばしお待ちを。ナルコベリー、この方たちにお茶をお願いします」
「承知しました」
シェリルの依頼に頷きを返すとナルコベリーは茶の準備をするために執務室を出て行った。
オッサンたちは少女たちをソファーに座らせ、その後ろで小声で意見を交換し始めた。
「どういうことだろうな?」
「伝書鷹が捕まえられるとか、そういった万が一を考えてじゃない?」
「まぁ動物に任せるよりも人間に任せたほうが秘匿性が高いってことかもしれんな。せやけど秘匿性が必要な情報ってなんや?」
「ウチのパーティーでそういうのが必要なのは一人しか居らんだろ」
「フィーちゃん絡みだよね、絶対」
「何かの陰謀やら作戦やらにフィーを巻き込みたくはないんだがなぁ……」
「フィーっちの生い立ちを考えれば、色んな勢力に目を付けられるのはしゃーない。オレらが考えるのはフィーっちを無事に故郷に届けるってことだけや」
「……そうだな。何があろうと。それが俺たちが果たすべき約束だ」
「事態が複雑になればなるほど初心を忘れがちになるもんね。初心忘れるべからず。最初に決めた僕たちの行動方針を忘れないようにしようね」
「おう」
小声で話すオッサンたちとは違い、シェリルは一言も口を開かずに封書の中身に視線を走らせる。
やがて――。
「”火よ”」
短詠唱と共に出現した火が封書を燃やし尽くした。
「さて。ムトゥからの便りによって事態の詳細を把握できました。手配はしておきますので後ほど受付で報酬を受け取ってください」
そういうとシェリルは執務机から離れ、フィーたちが座っているソファーまで近付いてきた。
「まずはノースライド王国第一王女フィーラルシア・ノースライド様へご挨拶を。我が名はシェリル・イグ・フォレスト。ノースライド北方にあるノースフォレストに住むエルフの村出身の者でございます」
「ノースフォレスト。そうですか、貴女はノースフォレストご出身なのですね」
「はい。我らが一族は古来よりノースライド王家と友好関係を結んでおりました。ノースライドの受難には一族も心を痛めております」
「ありがとうございます。我が王家の失態によりノースフォレストの皆様には迷惑を掛けております。お許しください」
「滅相もございません。ノースライド陥落の子細についてはムトゥからの封書によりようやく全て把握できました。ノースライド王家に失態などと。恨むべきはトリアゲス王フライドでしょう」
「いいえ。この災禍を平和に浸り、危機への備えを怠っていたノースライド王家の責任。王家の失態により国民に不自由を強いてしまったこと、無念に思います」
「……誇り高きお言葉、胸に染みます」
そういうとシェリルはフィーの手を取った。
「ノースフォレストに住まう全てのエルフは今もノースライド王家の味方でございます。王都奪還の戦を起こすのであれば一族総出で御身をお守り致しますゆえ、いつでもお声掛けください」
「お気持ち、感謝致します。シェリル様」
「どうぞシェリルとお呼びください。これからは我が力の全てを捧げ、フィーラルシア殿下をお守り致しましょう……と言いたいところなのですが――」
シェリルは立ち上がるとオッサンたちの方を向いた。
「ムトゥの話ではフィーラルシア殿下は今、ケンジ殿たちに保護されているとか。ウェースツを動けない私よりも、殿下をお守りするに相応しい士でありましょう。私はケンジ殿たちにはできない方法で殿下をお助けしようと思います」
「分かりました。ケンジ様たちは私にとって大切で、とても頼みにしている方々。是非、貴女の力を貸してください」
「お任せあれ。……さて。ご挨拶はこのくらいにして本題に移りましょうか」
そういうとシェリフはフィーの対面に腰を下ろした。
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