第70話 オッサンたち、拠点を確保する。


 ウェースツを目の前にして賊へと落ちぶれた元トリアゲス王国騎士に襲われたケンジたちだったが、その襲撃を危なげなく迎撃して騎士たちを捕まえた。


 捕まえた騎士たちを馬車に繋げたままウェースツの街に到着したオッサンたちは、街の門番に事情説明を求められることとなった。


「――ってことがあったんだ。で、返り討ちにしてふん縛ってきたんだけど、こいつらの処遇はあんたたちに任せても良いのか?」


「もちろんだ。治安維持への協力、感謝する」


「ちなみに賊を捕らえた報酬とかってあるん?」


「ああ、今から渡す割り符を持って領兵の詰め所に行ってくれ。些少だが報奨金を渡せるだろう」


「おお! それは有り難いわ!」


 報奨金と聞いてリューが機嫌良さげに笑っていると、もう一人の門番がケンジたちにギルドカードを返却した。


「ギルドカードのチェック終了です。問題ありません」


「そうか。ならあなたたちを歓迎しよう。ようこそウェースツの街へ」


「こちらこそ世話になる。ところで俺らはここの領主さんに用事があるんだが、領主さんの屋敷の場所を聞いても良いか?」


「ドナン様に? 冒険者が一体何の用だ?」


「セカンの街の領主さんから手紙を預かってるんだよ。ほら、これ」


 ケンジはセイル子爵から預かった手紙を門番に見せた。


「この封蝋の紋章は確かにグラディウス子爵のものだな。分かった。領主様の屋敷は街の中央広場を北西に行ったところにある。この街でも一番大きな屋敷だから行けばすぐに分かるだろう」


「さよか。教えてくれてありがとうやで門番さん」


「これも職務だから気にするな。では皆さん、ウェースツの街を楽しんでくれ」


 門番に見送られ、一行は大きな門をくぐってウェースツの街へ入場した。

 真っ直ぐに伸びる大通りを馬車で進んでいると、御者をするケンジの横に腰を下ろしていたフィーが感嘆の声を上げた。


「うわぁ~……セカンの街と違って冒険者さんの姿が多いですね」


「セカンの街も冒険者が集まる街だったが、ウェースツの周辺には地下迷宮ダンジョンが存在するらしいからな。それで冒険者たちが集まってきてるんだろう」


「そう言われると確かに冒険者さんたちの装いが少し違うような……」


「セカンの街は『獣の森』での狩猟が依頼のメインやから冒険者は比較的軽装やったんよな。せやけどウェースツは地下迷宮攻略ダンジョンアタックを考える冒険者たちが集まる街やから大荷物を持っとるやつらが仰山おるみたいや」


「地下迷宮……っ! 話には聞いたことがありますの。わたくしも一度、行ってみたいですわ」


「そうね。ノースライドにもいくつか大きな迷宮があったけれど、王都から遠く離れている場所だったしアタシたちは行かせて貰えなかったのよね」


「ノースライドにも地下迷宮ってあるんや。地下迷宮って案外多いんやな」


「地下迷宮は長期間発生した瘴気溜まりが変容してできるそうです。王宮にあった本にそう書いてありました」


「瘴気溜まりが変容してダンジョンコアになるってことかな?」


「そのイメージで合ってる」


「じゃあ瘴気溜まりを放置したら地下迷宮になるってことか。ん? でも瘴気溜まりが発生しやすいところには聖地が存在するんじゃなかったか?」


「そうですの。だからダンジョンは元聖地とも言える場所で、古代の遺跡が地下迷宮に取り込まれていたりするんですの」


「せやったらアイコちゃんと直接コンタクト取りたいときは地下迷宮攻略ダンジョンアタックせんとアカンって訳やな。はー、ちょっちめんどいなそれ」


「だけど迷宮攻略もいつかは取り組んでみたいよねー」


「そうですね。落ち着いたら私も行ってみたいです」


「いつか一緒に行こうな、フィー」


「はい……っ!」


「それはそうとケンジ。オレらは一体、どこを目指しとるんや?」


「いや特に目指しているところはねーぞ。適当に走らせてるだけだ。リューが指示してくれるのを待ってるんだが?」


「アホか! それを先に言わんかい!」


 リューはショートカットジェスチャーでマップを呼びだすと、ARキーボードを駆使してマップ内を検索した。


「よっしゃ、馬車を置ける宿屋をみっけた。場所を伝えるからそこに向かってや」


「宿屋? んなもん馬車の中でクランハウスを展開すりゃ良いんじゃねーの?」


「馬車だけポツンと置いてたら不審すぎて領兵が集まってくるかもしれんやろがい。宿屋に置かせてもらうのが一番安全や」


「でも今更宿屋に泊まるのもなぁ。不便じゃない?」


「ケンジのユニークアビリティ【クラン】はランクが上がってパーティーメンバーならどこでもドアを展開できるようになったやろ。フィーっちたちもドアが展開できるんやからそれで移動してくりゃエエねん」


「そう言えばそうだったね。だけどわざわざ宿を取るのは不経済だねえ」


「それも必要経費やろ。とにかくオレが今から言う場所に向かってや」


「了解」


 リューの先導の下、ケンジは馬車を走らせる。

 到着した宿は裏庭に馬小屋を持つ中規模の宿屋だった。


 幸いというか驚きというか。

 アイウェオ王国に比べてカーケーク王国での奴隷の扱いは比較的寛容で、主人と同じ部屋であるならば宿泊しても良いとの許可を得ることができた。


 何か揉め事が起こったときは主人が責任を取ることを約束させられはしたが、それでもアイウェオ王国よりはマシだ。


 ケンジたちは大部屋を一つ借りて拠点を確保したあと、減ってしまった物資の補給やギルド訪問のため、ウェースツの街へと繰り出した。


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