第68話 オッサンたち、次の街へ向かう

 次の日からオッサンたちはお金を稼ぐためにギルドに通い詰めた。


 モンスター大発生スタンピードを鎮圧した功績でCランクパーティーとなったTOLIVESトゥライブスは、今までランク制限で請け負えなかったギルドの依頼を着々とこなした。


 『獣の森』の奥地に発生したコカトリスの駆除。

 森の製材所を襲う灰色熊ジャイアントグリズリーの駆逐。

 森の奥地にある泉に咲くマナグラスの採取。


 ギルド依頼をテキパキとこなしてお金を稼ぐと同時に実戦経験を積み重ねる。

 そんな日々を過ごすうちに仲間たちのレベルはめきめきと上がっていった。


 依頼をこなして得たお金はそれなりに高額だったが、少女たちの進言によって二次職の練度を上げるために必要なものに投資することになり、結局、奴隷解放貯金はそこまで増えることはなかった。


 だがそのお陰かフィーの錬金術の練度は上がり、クレアも順調に調薬に慣れ、アリーシャも精霊魔法を使いこなせるようになった。


 少女たちの頑張りを見てオッサンたちも負けじと張り切り、今までやったことのない職のアビリティを取得した。


 ケンジは魔導師を。

 ホーセイは回復職を。

 リューは召喚職を重点的に取得し、それぞれの職のアーツやスキルを使った動き方ムーブを研究する。


 そんな有意義な時間はアッという間の過ぎ去り――やがてセイル子爵から約束の馬車が納入されることとなった。


 オッサンたちは使者に先導されてセイル・リィ・グラディウス子爵邸へ赴いた。


「やあ、トゥライブスの皆さん。こちらがお渡しする馬車になります」


 子爵邸の玄関口に停留している馬車は二頭の馬がほろのついたキャビンを牽引する、中型ワゴンタイプの馬車だった。


「おおっ、結構大きいんだなぁ、馬車って!」


「六人乗りともなると乗車するキャビンも大きくになりますからね。荷物を輸送する幌馬車のキャビン部分を改造し、皆さんが寛いで過ごせるようにしたのですよ」


「わざわざ改造してくれたんや。ホンマおおきにやで、子爵さん!」


「ふふっ、気に入ってくれたようで何よりです」


 喜ぶオッサンたちの様子に満足げな笑みを浮かべたセイルが、オッサンたちと一緒に馬車を眺めていたフィーに声を掛けた。


「フィーラルシア殿下。本当にノースライドに赴かれるのですね」


「……はい。セイル様から祖国の様子を伺い、私は改めて決意しました。私は祖国の民たちを救いたい。例えどんな困難が待ち受けていたとしても」


「決意は固いのですね」


「……(コクッ)」


「分かりました。微々たる協力しかできませんが、フィーラルシア殿下の本願が叶うことを心からお祈りしております」


「ありがとうございますセイル子爵。この恩はいつか必ずお返し致します」


「ふふっ、お気になさらずに」


 フィーに一礼したあと、セイルはケンジに声を掛けた。


「ケンジ殿にはこちらをお渡ししておきます」


 セイルは蝋封された手紙をケンジに差し出した。


「これは?」


「ウェースツ領主ドナン・レイ・ウェースツ伯爵への紹介状です。ドナン殿にはすでに連絡を入れていますが伯爵の館に訪れる際に使ってください」


「うっ……また貴族に会わなくちゃいけないのかぁ」


「ふふっ、ドナン殿は身分を気にしない方ですから気負わなくても大丈夫ですよ」


「まぁ失礼にならないように気をつけるつもりでは居るけどさ……」


「ドナン殿の屋敷を訪れて、とある人物に会ってください。そうすればきっと貴方たちの道は開けるでしょう」


「そうか。何から何まですまねえな、子爵さま」


「いいえ。こちらも思惑あってのこと。気にしないでください」


「怖い思惑じゃないことを祈るぜ?」


「ふふっ、約束はできませんね」


 胡散臭い笑顔を浮かべる子爵に苦笑しながら、ケンジは仲間たちに声を掛けた。


「それじゃ、みんな馬車に乗ってくれー」


「もう行くのですか?」


「ああ。子爵さんの話を聞いて時間を無駄にはできんからな。フィーたちを早く故郷に連れて行ってやりたいんだ」


「そうですか。ケンジ殿……フィーラルシア殿下をよろしく頼みます」


「もちろんだ。世話になったな、子爵さん」


「こちらこそ」


 差し出されたケンジの手を握り、二人は固い握手を交わした。


「よし! みんな乗り込んだな!」


「大丈夫、いつでも行けるよ」


「ほんなら早速、目的地に向かって出発や。ケンジ、号令は頼むで!」


「おう! 次の目的地はカーケーク王国西部の街ウェースツ! そこで何が待ち受けているかは分からんが、俺たちならどんな困難でも乗り越えられる!」


「力こそパワー! レベルこそ正義!」


「何があってもやることは一つやな」


「ああ。フィー、アリーシャ、クレア。みんなを必ずノースライドに連れていってやるからな!」


 力強く宣言するケンジの言葉に、少女たちは瞳を潤ませて頷きを返した。


TOLIVESトゥライブス! ウェースツに向かって出発だ!」


 おーっ!


 ケンジの声に仲間たちが唱和した。



 オッサンたちも少女たちも強くなった。

 今の時点で異世界最強と言っても過言ではないだろう。


 だがいくら強くなろうとも世界は残酷だ。

 想像もしなかった事実に打ちのめされ、少女たちは心に傷を負った。


 それでも少女たちは前を向く。

 現実の辛さに歯を食いしばって前を向き、力強い一歩を踏み出した。


 オッサンたちもまた、少女たちと共に前へと進む。


 進んだ先に何が待ち受けているのかは何も分からない。

 だがオッサンたちは少女たちを守るために全力を尽くすと決めていた。


 異世界に来たオッサンたちはスローライフの夢を見る。


 夢見るオッサンたちを乗せて、馬車はゆっくりと動き始めた――。



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