第67話 オッサンたち、改めてチートに気付く


「んじゃまずは俺からな。


 えーっと……ユニークアビリティ【指揮】ランク1。

 戦闘時にパーティー全員のステータスにバフが掛かる。


 バフ量は変わらずだが追加で魔法発動速度50パーセントアップ、魔法力回復速度50パーセントアップ、クールタイム20パーセント減が追加……


 って、破格すぎてやべえなコレ!」


「マジか! クールタイム二割減はヤバすぎやろ!」


「また強くなっちゃうじゃん、僕たち」


「あの、ご主人様。クールタイム二割減ってそれほど凄いことなのですか?」


「回復職はどちらかというとスキルメインで活躍するからフィーにはピンと来ないかもしれないな。


 簡単に言うと今まで十分で五回しか使えなかったアーツが六回使えるようになるってことだ」


「ええと……」


「例えばオレが良く使う【ソーンバインド】って足止めアーツあるやろ? あれってクールタイムが五分やねん。


 せやけどケンジの【指揮】の効果があればクールタイムが四分に短縮されるんや。


 強敵と二十分戦闘するとき、四回しか支援できなかったのが五回支援できるようになると考えるとかなり重要なことやろ?」


「それは確かにそうですの!」


「そっか。クレアなら実戦で支援アーツを使ってるから実感があるんだ」


「そうですの。クールタイムの管理が結構大変で……。連発できないものがほとんどですからクールタイムの時間が短くなればもっと効率良く、的確に支援することができますもの」


「アーツの回転速度が上がるとそれだけダメージ効率もあがるし敵を処理する時間も短くなる。


 だからクールタイムげんって効果は強力な支援アーツを中心に戦う支援職や、僕やケンジみたいにアーツとスキルを乱発する前衛職にとっては神Affix追加効果なんだよね」


「なるほど。そう言われると確かに凄く感じますね」


「商人には『時間は何よりも高く貴重である』という格言がありますの。効率が良くなるのは良いことですわ」


「それに魔法発動速度アップと魔法力回復速度アップも最高よね。強力な魔法をジャンジャン撃てるってことでしょ? すっごく楽しみ!」


「もう一つの【クラン】ランク1の方は……お、こっちも良さげだな」


「どんなんなん?(どんなものなの?)」


「お金を投資することで新たな施設や道具を開放できるってよ。


 例えば鍛冶とか調薬とか錬金用の施設だな。おっ、調教テイムモンスター用の小屋なんかも追加できるみたいだ」


「錬金って錬金術用の施設ってことですか?」


「そうみたいだぞ」


「そうなんですね。……」


「うふふっ、テイムしたモンスター用の場所があるなんて。ずーっと一緒に居られるってことですわね。それは素晴らしいですの!」


「クランハウスに機能を追加できるようになるのは良いね」


「ああ。ただ投資する金はバカみたいに高額だ。しばらくは封印だな」


「今のままでも充分チートやしな、クランハウス。急がんでもエエんちゃう?」


「だな。で、リューはどうなんだ?」


「ちょい待ち、確認してみるわ……」


 そういうとリューは自分のステータスをマジマジと観察する。


「まず【分析】ランク1やけど。

 今まで見えなかった情報も見えるようになるらしいわ。


 あとケンジの【クラン】ランク1と連動することで、パーティーメンバーの【鑑定】アビリティが【分析】アビリティに切り替わるみたいや!」


「マジかよ! やべえなその新機能!」


「但しオレが意識を失っていたり、パーティーチャットが届かないような場所に居る場合は使えんようになるって。なんやちょい不便やな」


「いやいや不便どころか充分だよ! リューに頼らずに【分析】が出来るのはかなり大きいでしょ」


「それならエエけど。あと【加工】ランク2は……おっ、すげえやん! リロール機能が追加されとるわ!」


「リロール、とは何ですの?」


「オレがアイテムを【加工】で作ったとき、そのアイテムには一度だけランダムに追加効果が付与されるねんけど、一度追加効果が付与されたアイテムは二度と付与できなくなるねん。


 せやけど新しい機能があれば、一度付与された追加効果をお金を払えば簡単に上書きできるようになるみたいや」


「やり直しができるってことですか?」


「せや。今までは目当ての追加効果を付与するために【加工】で作って、追加効果が気に入らんかったら【加工】で素材に戻して……ってせんとアカンかってん。


 素材に戻すときにどうしても品質が劣化してもうたり、素材の数が減ってもうたりしたから大変やったんやけど、この新機能があればお金を使って目当ての追加効果がゲットできると思うわ。


 ま、結構な金額が必要みたいやし試してみんと分からんけど」


「リューの【加工】は俺たちにとって生命線だ。色々と試して熟練度を上げておいてくれよ」


「おう、ユグドラシルファンタジー生産職、世界ランキング七位の底力、今こそ見せたるわ!」


「楽しみにしてるぜ。んでホーセイは?」


「んー、あまり大した機能は追加されてないかな。【地形操作】ランク1は地形だけじゃなくて地質の操作ができるようになっただけだし、


 【抽出】はリューの【分析】と連動して抽出できる成分のリスト化ができるようになったぐらい?」


「いやそれでも充分やべえだろ! 地質操作できるとかやべえ。神かよ」


「将来的に農業したいホーセイにはピッタリな機能やん」


「それはそうなんだけど、今の僕たちにはあまり必要ないかなって。ごめんね、あまり力になれそうになくて」


「そんなことねーよ。今でも充分、ホーセイには世話になってんだ」


「せやせや。まぁ時間ができたら使い方を色々と試していこや」


「そうだね」


「これでひとまず強化されたステのチェックは完了か?」


「せやね。チーターやったらオレらが更にチーターになってもーたと。


 ベリーハードなこの世界を生き抜くためには有り難いけど、正直、なんかズルしまくってる気がして心が痛いわ。


 どれぐらい痛いかっていうと、真冬にドアノブ触ったときに静電気アタック食らったときぐらいは心が痛い」


「いや全然痛がってねーだろそれ」


「アホ言え。不意にバチコーンッてくる静電気、めっちゃ痛いやんけ!」


「僕たちが強くなったのは良いけど、フィーちゃんたちはどう? ステータスに変化は無かった?」


「そうですね。色々と確認してみましたが特に変化はありませんでした」


「わたくしたちもご主人様たちのように特別な力が欲しかったですの」


「アンタは良いじゃない。支援職バッファーだけじゃなくて調教職テイマーの能力も取得してるんだし。


 ねぇご主人様。アタシも新しい力が欲しい!」


「あの、私も欲しいです!」


「わたくしももっと強くなりたいですの!」


「俺はもちろん賛成なんだけどな……どうする、リュー?」


「せやなぁ……。みんな実戦経験も積めたし好きにしたらエエと思うわ。せやけど一応、どんな能力が欲しいかは相談してな?」


「もちろんです! あの、私、実はもう決めているんです!」


「おっ、フィーはどんな能力が欲しいんだ?」


「私、錬金術を覚えたいです!」


「錬金術か! 良いなそれ!」


 ケンジの賞賛にフィーは照れくさそうに頬を染める。


「錬金術で生命力HP回復ポーションとか魔法力MP回復ポーションを作ることができれば、みんなの力になれるかなって」


「そうか。楽しみだなぁ、フィーのポーション!」


「あの、私、頑張ります! 頑張って錬金術を覚えます! だから錬金術の能力を取得して良いでしょうか……?」


「錬金術は素材集めがかなり大変やけど、それはオレらも手伝うし……うん、ええチョイスやと思うわ。


 ほんなら後で取得する能力をリストアップしとくさかい(しておくから)、その能力を取得していき」


「やった……っ! ありがとうございます!」


「次、アタシ! アタシは精霊魔法が使いたい!」


「前に使えるようになりたいって言ってたもんなぁ……まぁアリっちも実戦経験を積めたしエエんとちゃう? フィーっちと同じように必要な能力のリストアップをしとくわ」


「……っ! ありがとう、リュー様!」


「エエってことやで。で、クレアっちはどうする?」


「わたくしは調薬を覚えたいと思っておりますの。でもフィーさんが錬金術を覚えるのであれば役割が被ってしまいますわね……」


「いやそんなことないで。こと薬に関して言えば調薬アビリティで作った薬のほうが効能が高いから。


 その代わり呪病とかの特殊な病や症状には対応できへん。錬金術士と調薬士はそこらへんで棲み分けできると思うわ」


「それでしたら是非、ご教授願いたいですの!」


「了解。ほんなら調薬士に必要な能力をリストアップしとくわ」


「よろしくお願いしますですわ!」


「良かったね、クレア!」


「調子に乗って変なクスリを作らないでよ? 実験台になんてならないからね?」


「うふふっですの♪」


「次の目的地は帝国の支配下にある場所だし、俺たちだけじゃなくフィーたちも強くなっていれば安心だな」


「この先、何があるか分からんしなぁ」


「きっと大丈夫だよ。レベルの制限が無くなったんだし。何かあるか分からないならレベリングを頑張れば良いだけだしね!」


「あー、結局、そこに行き着くんかぁ……」


「レベルを上げてステータスで殴るのが正攻法なのは理解してるんだけどな。正直、ホーセイのレベリングには付き合いたくねえなぁ……」


「同感や」


「えー、もう二人ともノリが悪いなぁ。ちゃんとみんなのことを考えて最初は控えめにしておくから大丈夫だって」


「なんやねんその、先っぽだけ入れさせてみたいなヤリチン台詞。絶対ウソやん」


「アハハッ!」


「とにかく子爵から馬車を引き渡されるまで、金稼ぎとレベリングと実戦経験を積むためにギルドの仕事に精を出そうぜ」


「せやな」


「ケンジ、お腹減った!」


「おう、出来たぞ! 今日の晩飯はニンニクと生姜と塩で下味を付け、タマネギとキャベツと一緒に炒めた牛肉、豚肉、鶏肉の超豪快オッサン飯だ! みんなたくさん食えよ!」


 大皿に山ほど盛られた茶色い肉の姿に仲間たちはキラキラと目を輝かせ、賑やかな夕食がスタートした――。

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