第66話 オッサンたち、改めてステータスを確認する
『水鏡の地下洞窟』。
古代には聖地として大切にされていたが、現在においては半ばゴミ捨て場のような状態になっていた最奥の広間を掃除したオッサンたちは、そこで思いも寄らぬ衝撃の出会いを経験した。
創世の女神アイコニアス。
自身が創った異世界にオッサンたちを転移させた張本人との出会いだ。
しかしその出会いは決して実り多きものではなく、アイコニアスについてオッサンたちが知れたことは少ない。
アイコニアスがオッサンたちが居た世界――地球にいること。
そしてフルダイブ型MMORPG『ユグドラシルファンタジー』のランカープレイヤーであること。
聖地と呼ばれる場所からならばアイコニアスにコンタクトが取れることと、奴隷の首輪は創世の女神でもどうにもできない代物であること。
たった四つの情報しか手に入れることができずに、オッサンたちはアイコニアスとの初
そしてその夜――。
地下洞窟からセカンの街に帰ってきたオッサンたちは、街外れの広場にテントを設営していつもと同じようにクランハウスを展開した。
「おーい、何か食べたいものでもあるかー?」
「肉ーっ!」
「いやホーセイに聞いてねえわ! フィーたちに聞いてんだよ!」
「えーっ。肉食べたいー。タンパク質摂取したいぃ~!」
「オッサンが気持ち悪い声出すんじゃねーよ。で、フィー。どうだ? 何か食べたいものでもあるか?」
「そう……ですね。あの、ご主人様が食べたいものが食べたいです!」
「そうね。ケンジ様の料理、美味しいもんね」
「ええ。宮廷料理人が作る料理とは違う、とても優しいお味ですもの」
「ご主人様が作って下さるなら私たちは何だって美味しく頂けちゃいますから!」
「へへっ、嬉しいこと言ってくれるなぁ。じゃあ今日は時間もあるし、ホーセイのリクエストの肉を中心に色々作ってみるわ!」
「やったー! 肉だ! 肉祭りだ!」
「いや祭りができるほど肉の在庫はネエわ!」
「ほな晩飯はケンジに頼むとして、や。今後のこともあるし、オレらはオレらでステータスのチェックをしよか」
「チェック、ですか? でもチェックってどんなことをするんです?」
「今回のモンスター
そう言うとリューは空中に”S”の文字を描いた。
そのジェスチャーに反応し、空中にステータスボードを表示された。
「スタンピードが始まる前のオッサンたちのレベルが72。ほんでスタンピードをクリアした後のレベルがー……86!
一日で14も上がってるわ! さすがバグありユニークアビリティやな!」
「僕は87だったよ。タンクしながら攻撃もしてたし、ずーっと最前線に居たからだろうね。ケンジはー?」
「俺はー……えっ、マジか。89になってるわ」
「オレらの中でケンジが一番上がっとるやんけ! 途中から別働隊として動いてたのに何でやねん」
「あー、もしかしてアイツのせいか?」
「心当たりでもあるの?」
「地下洞窟の最奥に到着したときに瘴気溜まりから見たことのないモンスターが
そういやリューに【分析】してもらおうと思って死骸をインベントリに入れてたのを忘れてたぜ」
「ほな後で時間のあるときに確認してみるから共有インベントリに移しておいて」
「了解」
「オッサンたちのレベル確認は良いとしてフィーちゃんたちは?
……ってハハッ、そのホクホク笑顔を見ればかなり上がったのが分かるね」
「オレらでも爆上がりしとるからな。それより低いレベルやった三人はめちゃくちゃレベルアップしとるんちゃう?」
「はい! 私、レベル51からレベル73になりました!」
「わたくしはレベル34からレベル68ですの」
「アタシもクレアと一緒。レベル68。あまりにもデタラメ過ぎて笑うしかないって感じだわ」
「アイコちゃんがくれた『取得経験値十倍』と『取得スキルポイント十倍』の乗算バグ様々やな!」
「しかもこのバグ、運営判断で放置決定してるからねぇ。ま、レベル100カンスト制限が撤廃になったからこれから永遠に強くなれるし! やったねみんな!」
「レベリングジャンキーはちょっと黙っとこな」
「ひどい」
オッサンたちの漫才に笑いを零しながら、少女たちは改めて自分のステータスを眺めた。
「世界最強の剣聖アレックス様のレベルが71だっけ? アタシたち、剣聖に近いレベルになっちゃったわね」
「ええ。フィーさんなんて剣聖のレベルを追い越しちゃいました」
「えへへ、全然実感は無いんだけどね」
「どれだけレベルが上がっても実戦経験が少なければ、それはちょっと動けるただの強い人でしかないからね」
「レベルが上がったからと言って無敵になれた訳ちゃうから、そこんとこあんまり勘違いしたらアカンで?」
「そういうものなの?」
「いきなり強くなってしまったから、何だか実感が湧きませんものね」
「どれだけ力の強い奴でも剣の達人と試合すりゃ負けるし、どれだけ足の速い奴でも走り方やコース取りが下手やったら負けてまう。
技術っていうエッセンスが入らんことには本当の意味で強くなったとは言えん」
「戦闘中、どう動けば効率的か。どう動けば正解か。そういったことが分かっていないと力でごり押しするだけの、そこらによく居る一般冒険者でしかないからね。
それでもレベルが上がっていれば何とかなるだろうけど、みんなは一般的な冒険者になりたいって訳じゃないでしょ?」
「それは……はい。私たちが強くなりたいのは目的があるからです」
「そうね。アタシたちは目的を達成する手段として力を欲してる」
「そのためにも実戦経験を重ねて、本当の強さを持たなければなりませんの」
「うん。それが分かっているなら僕からは何も言うことはないよ。明日からもビシビシレベリングしていくから、みんな僕に付いてきてよ!」
「はい!」
「当然!」
「お任せですの!」
「ちょいちょちょーい! なんか綺麗に纏めようとしとるけど、三人ともあんまりホーセイに乗せられたらアカンで?
何も考えずにレベリングジャンキーのホーセイに付いていったら、レベル1000まで一生レベリングさせられるから!」
「そんなことしないよぉ。僕がタカがレベル1000で満足するはずないじゃん」
「ほれ見ぃ! おまえの苦行に女の子らを巻き込むなっちゅーねん!」
「苦行じゃないってば。強くなるための修行だよ修行」
「装備が揃ってない頃とは言え、次のレベルに上がるための経験値百万ポイント稼ぐために経験値が10しか貰えないザコモンスターを一万匹倒し続けるのを修行の一言で片付けんじゃねーよ!」
「付き合わされたとき、地獄を見たんやでオレら」
「でも僕はその後、一人で三日間貫徹して達成したよ?」
「したよ、やないわ! すんなそんなもん!(するなそんなこと)」
「えー、楽しかったのになぁ」
ホーセイは心外とでも言うような表情を浮かべてぼやく。
「何だか分からないけど、ホーセイ様の言葉は簡単に信じない方がいいってことで良いの?」
「ことレベリングに関しては信じなくて良いぞー。こいつの簡単って言葉は俺らにとっては地獄すら生ぬるい苦行って意味だからな」
「わ、分かりました!」
「ホーセイ様の新たな一面が知れましたの」
「心外だなぁ」
「まぁそんな苦行のことよりや。次はアイコちゃんが強化してくれた【アビリティ】にどんな効果があるんか確認していこや」
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