第54話 オッサンたち、合流する
「も、モンスター第三波が来るぞーっ!」
「まだ来るのかよぉ! 一体、いつになったらスタンピードは収まるんだ!」
背後にある街から聞こえてくるラッパの音。
その音を聞いた防衛隊中央にいる冒険者たちが各所で絶望の声を上げる。
「おまえら弱音を吐くなよ! 新しい獲物だぞ! ガンガン狩ってガンガン稼げるって考えれば平気だろ!」
「何が平気なものかよ! 『獣の森』のモンスターなんてタカが知れてるとか言ってたのに、こいつらめちゃくちゃ強くなってるじゃねーか!」
「力は強いし、動きは速いし……普段、森の中で狩るモンスターたちとは段違いに強くなってる! こんなの普通じゃネエ!」
「クソッ、カインの口車に乗ってこんな前にまで来るんじゃなかったぜ! てめぇのせいだぞ! 何とかしろよっ!」
『おまえのせいだ』
冒険者たちは異口同音にカインを責める。
「ちょっとあんたたち! カインだけを責めるのはおかしいんじゃないの!?」
「そうです。皆、口を揃えてカイン様の言葉に賛同していたじゃないですか! 最前線に来たのは皆さんの自己責任でしょうに!」
責任転嫁の集中砲火を食らうカインを庇うように、二人の女性――大剣を背負った女戦士ダリアと、神に仕えていることを示す司祭のローブを纏ったレイネが冒険者たちに言い返す。
「うるせー! カインが抜け駆けしようなんて言わなければ良かったんだ!」
「そうだそうだ! カインのせいだ!」
「おまえたちは――」
冒険者たちの身勝手な言い分にダリアが激高しそうになったとき、
「きゃーーーーーーーっ!」
最前線から悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴に皆の視線が一斉に集まる。
その視線の先には剣を振るっていた剣士が複数の狼に組み敷かれ、喉笛を食い千切られた姿があった。
噛み殺した剣士から口を離すと、森狼たちは周囲の冒険者に襲いかかる。
「森狼に殺られるなんざマヌケなやつ……チッ、こいつ、ただの狼の分際で!」
「いや違う! な、なんだこいつら! 剣が当たらねえぞ!」
「おい、こいつらただの森狼じゃない! 強い、すごく強いぞ!」
「キャーッ!」
「こんな、こんな強いのはおかしいって! なんだよこの
異常とも言える強さの森狼の出現に冒険者たちは浮き足だち、モンスターの大群の圧力に抗し得なくなる。
(なにが……起こってるんだ……っ!?)
事態の変遷に頭が付いていかないのか、カインは身動ぎもせず茫然とした表情でモンスターたちに襲われる仲間たちを見ていた。
「ちょっとカイン! このままじゃ危険よ! どうするのっ!?」
「カイン様、しっかりしてください……!」
ダリアとレイネ、二人の声が聞こえているのにも関わらず、カインは言葉を返すことができなかった。
それほどまでに今の状況はカインにとって予想外のことであり、思考が完全に停止してしまっていた。
強敵の出現に悲鳴を上げ続ける冒険者たち。
このままでは確実に防衛ラインは突破されて、モンスターの大群が街に押し寄せることになるだろう。
だがカインは動かない。
いや、動けなかった。
どう動けば良いのか分からなかったからだ。
そんなカインの耳に声が届いた――。
右翼から離れたケンジたちTOLIVESの仲間たちは、少し離れた場所で戦う中央部隊を目指して走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……装備を付けたままなのにここまで走れるなんて、異世界様々だぜ……!」
「鎧を着たまま全力疾走なんて生まれて初めての経験だねぇ。元の世界に居た頃には駅の階段を上るだけで息切れしてたのに」
「筋トレ大好き人間のくせに息切れしてたのかよ?」
「筋肉があるからってスタミナがあることにはならないんだ。そこが筋肉
「あー、はいはい。ホーセイの筋肉ウンチクは長いからまた今度な」
「そっちから話を振っておいてそれはちょっとヒドイんじゃないっ!?」
「ちょっとご主人様たち! 中央部隊、何だか大変なことになってるみたいよ!」
アリーシャの声にケンジたちは戦場の中央に視線を向けると、森狼に襲われて隊列を崩す中央部隊が確認できた。
「あーあー、崩壊一歩手前って感じだな、ありゃ」
「抜け駆けしておいて一番先に崩れるなんて迷惑極まりないなぁ」
「そうは言っても中央が崩れたら左右にも影響が大きい。ザマァ! と言いたいところだが何とかしないと街がヤバイだろ」
「それはそうだけどさ。中央部隊のリーダーはあのイケメン君でしょ? 僕たちに絡んできたあのイケメン君のことを考えると、何だか釈然としないんだよねぇ」
「イキッたやつが失敗して落ちていく様を見て溜飲を下げたいって気持ちも正直、分からんでもないけどな。だけど後始末のことを考えれば指差してゲラゲラ笑っているだけって訳にもいかねーだろ」
「それはそうなんだけどさ」
「挫折した若者がもう一度立ち上がれるように。次にチャンスが来るまでの時間を稼いでやるのも、オッサンたちの役目ってやつなんだろうさ」
「言いたいことは分かるけどやっぱり僕は納得いかないなぁ」
「俺だって納得はしてねーよ。ただまぁ……持ち回りってやつなんじゃねーの?」
「なにそれ?」
「俺たちが若者って呼ばれていた頃にいたオッサンたちも、思う所はありながらも色々フォローしてくれてたのかもな、ってことだ」
「それが今、僕たちにお鉢が回ってきたってこと? まぁ……そういう先輩は少なかったとは言え確かにいたけどさ。でもケンジは怒ってないの? あのカインっていうイケメン君のこと」
「怒ってたし今も怒ってるしネチネチ絡んできたことは正直、許す気なんざこれっぽっちもねーよ。だけど腹が立つから見捨てるってのはまたちょっと違うだろ」
「それはそれ、これはこれってこと? お人好しだなぁケンジは」
「感情に任せて誰かを見捨てたり貶めたりできるほど若くないだけだ。感情は感情。現実は現実。そう割り切れるのもオッサンの特権ってやつなんじゃねーの?」
「割り切れるというか割り切っちゃうというか……。嫌な特権だけど、確かにそうかもね」
あいつが嫌い。こんなことやりたくない。
そう思っていても巻き込まれ、お鉢が回ってきてしまうこともある。
オッサンだから『しなければならない』という事実は、どれだけ嫌がっても、どれだけ避けようとしても生まれるものだ。
だからオッサンは我慢する。我慢して、溜息を吐いて切り替えて、無心で『しなければならない』ことをこなす。
それがオッサンとなった者の『義務』なのだろう。
例えオッサン自身がその『義務』に納得していなかったとしても。
「だからホーセイ。力を貸してくれ」
「当然。友達のやりたいことなんだから全力でフォローするよ」
「いつも済まんな」
「それは言いっこナシでしょ、グレートオッパイさん」
「頼りにしてるぜマダムスキー」
笑みを交わした二人は鞘から剣を抜き放った。
「フィー、アリーシャ、クレア! もう戦闘には慣れただろ。背中は任せるぞ!」
「はいっ!」
「アタシに任せておきなさい!」
「ご主人様方は全力で
「ハハッ、俺たちの仲間は頼もしいな! 行くぜホーセイ!」
「うん。第三ウェーブ、戦闘開始といこう!」
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