第53話 オッサンたち、早めに手を打つ

 モンスター大発生スタンピード、第二波が発生し、第一波よりも多くのモンスターが森から溢れ出してきた。


「ざっと千五百ってとこか?」


「防衛隊に参加してる冒険者は総勢二百前後って感じだし、処理速度が追いつかない可能性があるね。側防塔(城壁の間にある塔のような部分)でスタンバッてる領軍の弓兵と連携を取れたらまだ少しは戦えたと思うけど……」


「中央部隊が先走って前に出ちまって矢が届かないし、今の状況じゃ連携は無理だろうな。かと言ってこの状況で戦いながら退さがるなんてこともできねえ」


「撤退戦って高度な判断力が必要だもんね。だったらここでやるしかないね」


「そういうことだ。みんな! やることは今までと変わらねえ。落ち着いて効率良く敵を処理していけば何とかなる。気合い入れて行こうぜ!」


 ケンジの檄に右翼に配置された冒険者たちが次々と応える。

 その反応に満足しながら、ケンジはホーセイに指示を出した。


「ホーセイ!」


「うん! 【戦士の咆哮ウォーリアーハウル】!」


 盾職タンクアーツ、【戦士の咆哮】

 自身を基点とする広範囲に存在する敵のヘイトを集める挑発技だ。


 ホーセイがアーツを使用することで、迫り来る第二波のモンスターたちが脇目を振らずにホーセイに向かって突進してきた。


「おおよそ半分ぐらいは引きつけられたかな? さすがにこの数のモンスター集団パックが迫ってくる様子は圧巻だねー」


 多くのモンスターの攻撃をホーセイは盾と鎧と屈強な体力によって受け止めているが、決して一方的にやられている訳ではない。


 盾職のアーツの一つ【ソーンアーマー】を発動し、受けた攻撃を跳ね返す反射ダメージを使ってアタッカーの処理速度に貢献する。

 それこそが盾職の真骨頂だ。


「ケンジ、さっさと処理しないと第三波が来るよ」


「わーってるよ! アリーシャ、ファイアボールだ!」


「分かった! ファイアボール!」


 後衛にポジションを置くアリーシャがケンジの指示に従って火魔法ファイアボールを連発した。


 戦場の各所に響き渡るファイアボールの爆発音。

 その音が響く度に各所でモンスターが宙を舞った。


「アタッカーはホーセイの近くに居るモンスターの処理! すぐに次が来るぞ!」


「おう!」


 ケンジたちのパーティー・TOLIVESトゥライブスと一時的に合同パーティーを組んでいる『疾風団』のメンバーがケンジの続いてモンスターに攻撃を仕掛ける。


 次々と撃破されていくモンスターたち。

 アタッカーたちの奮戦によって防衛隊右翼の士気は最高潮に達していた。


 そんな右翼と同様に、リューがフォローに向かった防衛隊左翼も息を吹き返して前方に押し出し、モンスターの攻勢をがっちりと受け止めるようになっていた。


 だが――。


「中央、ちょっと圧されてるな」


「左右より人数は多いけど支援職が居ないからね。どうするケンジ?」


「手助けしたいがこっちも人手はギリギリだ。今は様子を見る」


「了解」


 手短に相談すると、ケンジは再びモンスターへの攻撃を再開した。




 その頃、左翼ではリューの支援アーツの効果に驚愕の声を上げながら冒険者たちがモンスターを押し返していた。


「すごい! これが支援魔法の効果なのか!」


「今まで支援術士なんて使えない冒険者の筆頭って言われてたのに、まさかこんなにも戦闘に貢献するなんて……!」


「そうやろそうやろ! 支援魔法は極めれば一ランク上の戦闘経験をみんなに提供することのできる夢のある職業なんやで!」


 冒険者たちの絶賛に笑顔で応えながら、リューは迫り来るモンスターたちの足を止めるために次の手を打つ。


「エエか? モンスターの集団に真っ正面から挑んだらアカン。知恵と勇気を振り絞って、戦術を駆使して戦えるんがオレら人間の最大の武器やねんから!」


 そういうとリューは移動阻害用のアーツをモンスターに向けて放つと、地面から現れた茨の蔦がモンスターたちを拘束する。


「オレが敵の動きを阻害して集団を細かく分ける。前衛のみんなは細切れにされた敵集団に攻撃を集中して素早く撃破してくれ。あとはその繰り返しや。みんなしんどいやろうけど頑張っていこな!」


「おう!」


 リューから作戦の説明を受けると冒険者たちは足止めされ、細かく分けられた敵集団に攻撃を集中する。


「前衛、エエ調子や! 後衛は前衛が気持ち良く動けるように回復を中心にフォローしたって!」


「任せて!」


 回復職たちが前衛の冒険者たちに回復魔法を施すなか、リューは中央の動きが鈍くなっていることに気付いた。


「中央、かなり押し込まれてきてるやん……」


 今、現在の防衛隊の陣形は横並びだ。

 これが中央が押し込まれてしまうとV字のような形になる。

 するとどうなるか?


(中央がへこむと左右の部隊が半包囲される可能性が高くなる。できるだけ横一列に保っておきたいけど今の様子やと厳しいか……)


 中央がへこんでしまうと、そこに入り込んだモンスターによって左右の部隊が横合いからの攻撃されることになる。


 その攻撃を受け止めるために人手を割けば、必然、前から来るモンスターに対抗するための戦力が減ってしまう。


 その状態が続けばモンスターの数の圧力に抵抗できなくなった段階で堰を切ったように押し切られ、やがては戦線全体が崩壊することになるだろう。


(何とかしたいけど、こっちも手が足らん。どうするか……)


 手はただ一つ。

 それはリューにも分かっているのだが。


「ええい、悩んでてもしゃーない。取り返しが付かんく(付かなく)なる前に手を打ったほうがエエわ」


 瞬時にそう決断したリューが、戦闘の隙をついてショートカットジェスチャーでパーティーチャットを開いた――。




「ケンジ! リューからチャットが来てるよ!」


「おう、こっちでも確認した!」


 ホーセイにヘイトを向けるモンスターを背後から急襲してトドメを刺すと、ケンジは前線から一時的に後退してリューのメッセージを確認した。


「お、おお……マジか」


「リューは何だって?」


「中央に合流した方が良い、だってさ」


「えっ、マジで? 中央ってケンジにやたら絡んでたあの若いイケメン君がリーダーなんでしょ? 僕たちが合流するのなんて許さないんじゃない?」


「そう思うんだが、それでも合流した方が良いんだってさ」


「そんなにマズイの? 中央の部隊」


「こっちには俺とホーセイが居るし、左翼にはリューが居る。中央には俺らみたいなチートなやつらは居ないだろうからなぁ」


「でも僕たちが中央に合流したら、そのまま指揮を乗っ取ることになっちゃうんじゃない?」


「結果的にはそうなるだろうなぁ。でもリューもそうするほうが良いって考えてるんじゃないか?」


「まぁ早め早めに手を打たないとジリ貧になっちゃうだろうし、ケンジたちが洞窟に向かうためにもその方が良いかもね。どうする? すぐに動く?」


「そうしよう。おーいザザンさんよぉ!」


「おう、なんだぁ?」


 大剣でトドメを刺したモンスターの返り血を浴びて壮絶な姿のザザンが、ケンジの呼びかけに応えて前線から駆け寄ってくる。


「どうやら中央がヤバそうだ。TOLIVESのメンバーは中央に合流して戦線を立て直すから、こっちの指揮はあんたら『疾風団』に任せたい」


「お、俺ぇ!? こんな大人数の指揮なんてやったことねーぞぉ!?」


「今、左翼にいるリューもすぐに中央に合流するから、ある程度の指揮はリューがやると思うぜ? ダビットさんに走り回ってもらうことになるけどな」


「それならまぁ、なんとかなる……か?」


「中央が崩れたら戦線が瓦解しちまうからな。やるしかねーんだ」


「……分かったよ。何とかやってみよう」


「済まんがよろしく頼むぜ。フィー、アリーシャ、クレア! 第二波が落ち着いたら俺たちは中央部隊に合流するぞ!」


 ケンジの声に少女たちが力強く頷く。

 そんな中、街の側防塔から三度目のラッパの音が鳴り響いた――。


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